その身体を組み敷いて貪る時、神威は逸る気持ちを必死に押さえてこの上なく優しく触れるように努力する。
焼き切れそうな理性を必死に押し留めながらもその身体の隅々までなぞるように、この身体で知らぬ場所は無いのだということを確かめるように指と舌を這わせる。
高杉の身体はいつも冷たくて熱い。表面は冷え切っているというのに中に触れれば燃えるように熱かった。
その落差に神威はいつも酩酊したような感覚に陥る。
「・・・っ高、杉」
出したい。まだだ。もう少し、がまん。
必死に衝動を抑える神威に気付いたのか高杉が笑みを浮かべた。普段ではお目にかかれないような、酷く艶気のある、それでいて何か温かいものがあるような。
( まるで優しさっていうのみたいだ )
そんな感じ。優しいが何か神威にはその本質がわからない。力を入れる入れないの『優しい』は理解できても精神論的なものは神威には理解できない。けれどもこの瞬間の高杉には『優しさ』があるように思う。それが何なのかわからない。わからないからいつも縋るように高杉の身体を求め、そして交わりの果てに何かを得ている気がする。
何を得ているのかさえ神威にはわからないのだが、高杉との情交はそういった不思議な心地があった。
だからこそ神威はそれに夢中になった。
高杉が許すのなら、その身体を貪り、ひとつひとつ確認するように撫ぜ、舌を絡ませ、互いが蕩けるほど求める。
衝動を必死に堪える神威の様子が良かったのか高杉は神威の髪を撫ぜ、擦れた聲で「もう少し、がまん」と云った。
子供をあやすような高杉の物言いに不覚にも神威が達して仕舞う。
高杉の低い掠れた聲がいけない。色っぽすぎるのだ。ダイレクトに下肢で主張する自身にキてしまい、神威はもう堪らずに高杉の中に散らしたことも忘れて少し乱暴に高杉の尻たぶを掴み高杉を揺らした。
神威が押し入った力が思ったより強かったのか高杉が悲鳴を上げる。
それは嬌声と云っても差支えないものだ。
「・・・っア・・・!」
その悲鳴が心地良い、予想外の刺激だったのか中の神威自身が強く刺激される。その絞られるような感覚に神威は笑みを浮かべながら高杉の頬に流れる汗を己の舌で舐めた。
小刻みに揺らしながら、堪らないのか高杉は必死に神威の髪に手を伸ばす。
「・・・っ痛・・・!」
ぐい、と強く高杉に髪を引かれて神威に痛みが奔るが高杉はそれどころでは無いらしい。
神威がぐ、ぐ、と浅瀬を刺激しながら揺らせば高杉がついに達した。その後、数度高杉を揺らして神威も限界に達する。
はあ、と息が漏れる。
互いに抱き合ったまま息を整え、口付ける。
激しく口付けようとすればやんわりと拒まれたのでとりあえず休憩ということだろう。
ふとさらさらとした感触が首元にあるので高杉が引っ張った所為で己の髪を縛っていた紐が解けたことに神威は気が付いた。

「取れちゃった」
神威が適当に髪を掴みながら云えば高杉は煙管に火を入れ、ゆっくりと吸い上げる。
そして手拭いで身体の汚れた部分を拭い、拭い終わった手拭いを神威に投げた。
要するに『拭け』ということらしい。確かに神威の腹に高杉の出したものが散っているので遠慮なくその手拭いで拭った。
高杉はその様子を見つめながら二、三度煙を吸い上げ、それから灰入れに煙管の先を落とした。
「後ろ向け」
云われるままに神威は後ろを向く。
すると高杉が神威の髪に指を入れた。
高杉の優しい手付きに神威は内心驚く。
「何?括ってくれるの?」
「じっとしてろ」
高杉はいつの間にか小物入れから櫛を取出し神威の髪に通す。
洗う時もそうだったが高杉は神威の髪に触れる時酷く慎重な手付きになった。
高杉なりのこだわりがあるのか、その辺りは神威にはわからないが、こうして高杉に触れられるのは好きなので高杉のするに任せる。
任せていると高杉は更に優しく丁寧な手付きで神威の髪を纏めた。
そして何処から取り出したのか、簪を神威の髪に入れ器用に一纏めに結い上げて仕舞う。
一連の高杉の仕草は手馴れているので尚の事不思議である。
簪一本で髪を留めるのが便利に思えてこの簪一本で髪を上げて仕舞う方法を神威は何度か試したことがあるが、引っ掛かりが悪いのか大抵上手くいかない。上手くいくときは簪が崩れずに髪を留めるのだが、大抵は失敗に終わった。未だにコツが上手く掴めないが高杉が結うと常に簪が綺麗に止まるので神威からすれば不思議である。
思わず神威は感想を口にしようとするが、口を開きかけたところで止めた。
高杉は再び煙管を口に運び神威の上げた髪を綺麗に流している。
それが心地良くて此処で何かを口にするのは無粋な気がした。
全く互いに敷布の上で裸で何をやっているのか、交わった後に裸で、髪を結いあげて、どう考えても男二人ですることでは無い。
けれども神威はそれが良かった。
心地良いこの時間が好い。
神威の髪を優しく撫ぜるこの手があればいい。
ずっとこれが続けばいいと、そんなことを想いながら夜の帳は降りてくる。


19:夜の帳

お題「髪結い」

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