その日神威は艦の食堂に顔を出した。
神威が気紛れに食堂に訪れてみればまだ食事の時間でも無いのに何事か盛り上がっている。
確かに次の任務まで衛星の軌道上で待機となれば艦から出ることも出来ないので艦内の数少ない娯楽は人で一杯なのである。
当の神威も部屋でゲームをするのにも飽きて何か摘まもうかと食堂に赴いたのだから皆考えることは同じであった。

「何話してんの?」
がははと大声を上げて部下達が軽く十人は集まっている。
酒も入って楽しそうだ。巨大なハムを肴に盛り上がっているので神威もその輪に入り傍らの部下が持っていた酒瓶を奪いハムを口にする。高杉と共にする時に出される食事には程遠いがこれはこれで夜兎特有の雑さがあってその安っぽい味が神威は嫌いでは無かった。
「団長!聴いてくださいよー!こいつこの前キャバで口説いた女と3Pしたって!」
云うなよ、と爆笑する面子を見てから神威は少し首を傾げる。
「それを云うならお前だってこの間朝までソープ梯子したって云ってただろうが!」
ソープ、キャバ・・・3Pはわからないが、なんとなく話の筋はわかった。
筋骨隆々の部下達は所謂猥談をしているのだ。
「あ、女とセックスの話?」
肉厚のハムに齧り付きながら神威が問えば部下達は爆笑しながら神威に向かって次々と武勇伝を語り出す。
「そうそう、抜かずの三発したとか、女落とすのにいくら使ったとか、そういや団長は前までこの手の話には入ってこなかったのに今日はいいんで?」
冗談めかしに問われて神威は苦笑した。
まあ興味は無い。他人の性生活になど神威は微塵も関心は無い。
けれども『内容』には興味があった。
神威は高杉を知ってからその手のことには興味が尽きない。
だから他人がどんなことをしているのか僅かながらに興味が湧いたのだ。
上手くいけば次に高杉に会った時、高杉を褥でどうにかできるかもしれない。いつもは神威が翻弄されるばかりだが神威が高杉を翻弄することも有り得るのだと知らしめてみたいという願望もあった。
「うん、聴かせてよ」
神威が煽れば部下達は一層声高に武勇伝を語り出した。
阿伏兎が食堂の入口で呆れた顔をしているので、お前も参加するかと指で合図してみたが仕事があるらしく手を振って阿伏兎は退室する。特にすることも無いので神威は部下達に高杉の鬼兵隊から師団にと差し入れられた上等な日本酒を開けてやれば益々場は盛り上がった。

「そういや団長はどうなんスか?」
突然話題を振られて神威も驚く。
つまり高杉とのことだ。すべからく団員の全てが高杉と神威が肉体的な関係を持っていると知っているのだから当然ではあったが己にその話題を振られるとは思わなかった。
団員からすれば男とするなど考えてもみないことであろうが、高杉を見れば皆高杉に呑まれる。そういう妖しい魅力が高杉にはある。神威のいない場所で高杉に不埒をしようとした男を高杉が制裁したこともある程だ。勿論後でそいつは神威が殺したが、そういうことが色々あって皆周知のことなのである。サムライと違って夜兎はそういうところがオープンな気質だ。
「えー、どうって?」
中々神威が口を開かないので業を煮やしたのか部下が神威の杯に酒を注ぎ促してくる。
話すつもりは無かったのだが、こうも乞われては仕方ない。別に話す程度ならいいかと神威は話出した。
「別に大したことしてないよ、高杉が俺の上に乗ってくれたとかその程度、まあその時俺が縛られてたんだけど・・・」
「SM・・・!団長スゲー・・・」
神威からすればSMの意味がわからない。わからないがあれは最高だった。
最中に神威が何かを間違えて高杉に殴られるのはよくあることだったが、神威が縛られながらも己の上で腰を振る高杉に煽られて三度達した後、我慢できずに縛られていた紐を引き千切り高杉を押し倒し貪ったのはつい最近のことである。
「ほ、他には!?なんかスゲー場所でシたとか・・・!」
「えー・・・?凄い場所?そんなの無いよ、フツー。だいたい俺が高杉のとこ行ってるし・・・あ、でも此処でヤったかな」
「いつ!?」
「先週」
ヤったんかい!?食堂H!とツッコまれながらも神威はその時の回想をする。
たまたま高杉が神威の艦を訪れて夜半にお腹が空いたから食堂に赴いたのだ。
そしてそのままムラっとして仕舞ってヤって仕舞った。
「高杉の服って薄いからさ、たくし上げてフンドシ?をずらせば出来ちゃうっていうか、それが凄いんだけどさ、」
全員がごくりと唾を呑んだ。
既に猥談自慢では無く神威と高杉のプレイ談義になっている。
「丁度この机で」
ガタっと何人かが立ち上がり部屋を出る。部屋を出る理由がわからないがトイレに向かっているようだった。
どうでもいいが、立った奴の顔を神威はしっかり覚えた。なんとなくムカつくから。

「別にこのくらい普通でショ」
「普通っスかね・・・?じゃあ他にもっと凄いのでもあるんですかい?」
その言葉に神威はうーん、と首を捻った。
そして「そういえば・・・」と思い出す。
「前にさ、どっかの星系に寄った時に酒を貰ったから高杉と空けたことがあったんだけど・・・」
「それで?」
身を乗り出してくる団員を制しながら神威は思い出していく。
そうだあれは大変だった。
「人型の種じゃなかったから一応酒の成分表は見たんだけど大丈夫そうだったから二人で開けたらどうも媚薬成分が入ってたみたいでさ、しかも遅行性だったから後から二人でムラっとしちゃって、あれは大変だったなー」
「それでっ!!??」
「それで・・・」
と神威が口を開いたところでブリッジから連絡が入る。

『団長ー、てめぇの本命から通信だぞすっとこどっこい』

酷くやる気の無い聲は阿伏兎である。
その呼び出しに神威は立ち上がる。高杉からの連絡である。
直ぐに出なければ切られて仕舞う。食堂に回線を回してもらうのも野暮なのでブリッジに向かうと指示を出して神威は出て行って仕舞った。
「じゃ、あとは皆で適当にやってよ」
酒瓶を置いてあっさりと去る神威に全員が絶叫したのは云う間でも無かった。
中途半端に置いていかれた方は堪ったものでは無い。
あの神威の武勇伝だ。明後日の方向に性が目覚めて仕舞ったが相手があの高杉では無理も無い。
衆道の気配の無い相手でさえ高杉はその気にさせて仕舞う魔性の男だ。
この場に居る殆ど全員がもし高杉に誘われでもしたら頷いて仕舞うに違いない。
団長の手前それは有り得なかったが、とにかくそれほどの危険人物だ。
その人物とどれだけ乱れて爛れたことをしたのか、羨ましいったらない。
これでは不完全燃焼だ。
うあああああ、と悲鳴をあげる一人が酒を煽りながら云った。

「俺、次の補給の時、ソープで絶対黒髪の女に行こう・・・」
「俺も・・・」
その場にいた全員の意見が合致した瞬間だった。


06:そこんとこKWSK!


そしてその頃神威は・・・。
「そういや高杉、3Pって何?」
『死ね』

お題「Y談」

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