※連作の方の設定に乗っているので神威が童貞だった設定です。


地雷を踏んだのだ。
珍しくやって仕舞った。
やらかして仕舞ったのだと神威が慌てて取り繕おうとした時には遅い。
不機嫌そうな高杉の顔に神威は問答無用で衣服ごと裸で廊下に放り出されるという前代未聞の大恥を掻くことになった。

事の発端はこうだ。
途中までは良かった筈だ。
その日は久しぶりに高杉に会えて何日も前から会うと伝えていた筈だし、神威も任務で沢山戦えてそれなりに満足していた。
心地良い疲労感に包まれたまま高杉の艦に赴いたのだ。
「ね、いい?」
徳利を四本空けたところで神威が高杉に擦り寄れば満更でもなかったのか或いは神威が仕掛けるのを待っていたのか高杉が口端をくい、と持ち上げそれから目線を奥の褥に遣った。
これは合図だ。神威は頷き高杉を褥に導いてから口付ける。
互いの歯列を割り舌を絡め咥内の隅々まで味わうような激しい口付け。これは高杉に教わったことだ。
こうした情交を神威は高杉に遭うまで知らなかった。この男を知りたくて始めたことだが、この男が神威に与えるものは計り知れない。壊すことと殺すこと強い相手と戦うことしか知らなかった神威のあらゆる感情から快楽まで、全て神威に教えたのは高杉だ。
夜の関係を持って既にそれなりの回数もこなしてきた。手酷く怒られることも無く最近ではすんなり褥での情交を互いに愉しめているいると神威は思っている。
高杉の着物を開いて帯を解き下着に指を入れて、晒された肌をゆっくりと舌で撫ぞる。高杉の肌にある幾つもの過去の傷を清算するように舐めるのが神威の拘りだ。
肉が割かれた痕の上にぷっくりと盛り上がった新しい皮膚がある。其処を下から上へ舐めるのが気に入っている。
そうすると高杉の肌がしっとりと汗ばんできて味わいがあって堪らない。時折、嫌がるように高杉が身体を揺らすのも好きだった。それを抑えるようにその手に己の指を絡ませ神威はその時間を愉しむ。
夜は長いのだと神威に教えたのは高杉だ。責っ付くな、と。この時間を愉しむのだと。情交の前の前戯など神威は考えたこと無かったがゆっくりと獲物を追い詰めるようなこれには嵌っている。後の快楽を想えばこの我慢も悪くない。
神威の若い身体では高杉の中に直ぐ様己を埋めて達したい、或いは壊して仕舞いたいという衝動がある。だが、神威は毎度その衝動を強い理性で抑え込んだ。
「・・・っう」
神威が存分に高杉の身体の傷の隅々まで、それこそ内腿に僅かにある傷まで確認するように己の舌を這わせたところで頃合いかと、高杉の本来ならば挿れるべきでは無い場所へ己の唾液で濡らした指を入れる。
そもそも相手が男なのだから挿入する場所などある訳が無い。ならば排泄する方の場所を使うしか無い。
それに抵抗も嫌悪も無い。高杉だから欲しい。神威にとって答えはシンプルだった。
逆に高杉こそよくこんなことをして平気な顔をしていると思う。一度神威がそれを高杉に素直に問うてみたら、それが必要なこともある、とだけ云われた。高杉の価値観は神威には少し難しい。神威だったら自分が挿れられるなんて真っ平御免だ。ただし高杉に挿れるなら大歓迎である。これが他の男だったら虫唾が奔るがこの男が相手だとそれすらも艶気に替わるのだから全く随分入れ込んでいるものだと神威は内心一人ごちる。
指一本を二本に増やしてゆっくりと中を掻き回せば高杉の腰がひくりと慄えた。
最初は解すのに苦心をしたが要領をを得た今では難無く出来る。高杉の誘導が上手いのも一因しているだろう。
この男が他の誰かと寝た、或いは寝ているであろう事実に神威の腹の底がどす黒いもので染まるが、今それを考えてはいけない。目の前に集中しなければこの時間が惜しい。少なくとも今この瞬間は、この身体も意識も神威の為にあるのだから。
「・・・っ、」
中を指で突けば確かに感じているらしい高杉に神威は気を良くする。
下手糞だと散々罵られて褥でも容赦無く殴られたものだが、我慢と苦労と学習の甲斐あって今ではこうして高杉を僅かながらにでも己の手管で感じさせることが出来るのだから己を褒めてやりたい気分だ。
だから神威は調子づいた。云うなれば少し天狗になっていた。慣れてきて油断していたのだ。高杉の性格を失念していた。
悪戯心をたっぷりと含ませて、熱を孕んだ眼で高杉の中を己の指で撫ぜ回しながら高杉の好きな場所を刺激する。
撫ぜるように、ゆっくりと的確に掻き回して、息を荒くする高杉を見下ろしながら。

「高杉は此処、好きだよね、ほら、イイんでショ?」

その言葉を云われた瞬間、高杉は眼を見開いた。
沸々と怒りが腹の底から湧いてくる。苛々が頂点に達して高杉は目の前で己の中を弄る餓鬼の頭を張り倒す勢いで殴った。
「てめぇ、調子こいてんじゃねぇぞ」
( あ、やばい )
慌てて神威が取り繕おうとしても駄目だ。既に褥から神威の身体は出ている。頬がずきずきとする。つまりだ、神威は高杉に殴られたのだ。常に無い本気の速度で。神威も高杉に夢中になるあまり避けるのを忘れていた。最も神威がいつものように本能的に避けて仕舞ったら金輪際強姦でもしない限り褥で交わるなど出来はしなかっただろうから打たれて正解なのだが、神威は頭をぽりぽりと掻いて先程まで高杉の中に入れていた己の指の先を名残惜しそうに舐めた。
「えっと、ごめん・・・」
何が悪かったのか、イマイチ神威には思い当らないがとりあえず謝る。謝った方がいい。神威はそのあたり高杉との付き合い方を心得ていた。心得ていたが今回はどうやら地雷を踏んだらしい。怒りに燃える高杉の眼も色っぽくて良いなどと考えている場合では無い。
( やっちゃったなー・・・ )
思い当る節があるとすれば神威が調子づいたことだ。既にセックスをするような関係になってから大分高杉に慣れた。
否、慣れさせられたのは神威だ。高杉の望むように高杉が気持ち良い情交をすることに神威の方が慣れた。だから神威は高杉の上に乗って高杉を犯す権利はあってもそれは身体だけであってこの褥での主導権は高杉にある。
少なくともこのセックスに於いて高杉は神威よりも上なのだ。
だから高杉が気に入らないような上から目線で神威が発言したことが悪かったのだろう。そして恐らく神威の手管も悪かったのだ。高杉のイイ所だと思っていたが誤解だったらしい。まだまだ精進が足りない。
改めて神威が高杉に詫びようとするが駄目だった。高杉の気が逸れたのか、興醒めだと云わんばかりに高杉は問答無用で神威の衣服を引っ掴み神威ごと廊下に放り出して仕舞ったのだ。
「帰れ、もう来るな」
「え?此処で?この状態で!?」
神威のそれは既に臨戦状態だ。つまり勃起したままである。このまま放り出すなんてあんまりだ。酷すぎる。
己のムスコが可哀想すぎる。まさか、あり得ない、マジで?と高杉に目線をやれば高杉は無慈悲に神威の目の前でドアロックを遠慮無く下ろしてパスコードまで書き換えて仕舞った。
「うっそ!それはナイだろ!高杉!ごめん!俺が悪かった!調子こいてた!本当ごめん!」
えーん、と固く閉ざされた扉のロックの前で神威は猫のように扉をカリカリと引っ掻くしかない。
ちなみに真っ裸である。いくら夜だと云っても人通りの無い廊下では無い。が、皆見て見ぬ振りをするのは侍故なのか、これが第七師団だったら面白半分の扉が開くか開かないかの賭け事半分で見物人が集まりそうである。けれども形振り構ってられない神威は扉の前で只管謝り続けた。ちなみに千里の速度でこの神威の醜態は数分後には第七師団でも噂になっていた。
しかし神威はそれどころでは無い。この事態をどうにかするのが先決だ。何せ臨戦状態である己をどうしたらいいのか。途方に暮れる。いっそ扉を壊してでも入るかとさえ考えて仕舞う。夜兎である神威がこの扉を壊すのは簡単だ。
だが壊せばもっと高杉の機嫌を損ねるのがわかっているので廊下で情けなく神威は途方に暮れた。
ス、と何時の間にか神威の衣服を拾った万斉が無言で神威に衣服を差し出す。「着ろ」ということだ。
とりあえず差し出された衣服を着て神威は扉越しに「悪かったから・・・!」と情けなく謝るしかなかった。

一方扉の外で行われるそれを不機嫌そうに聴いていたのは高杉だ。
衣服をおざなりに羽織って不機嫌を隠さずに敷布の上で煙管に火を灯し煙を燻らす。
此処まで腹が立ったのは久しぶりだ。
( あの餓鬼、調子づきやがって・・・ )
好きにさせているのは高杉が許しているからだ、決して神威が高杉を好きにしているわけでは無い。
なのに神威は得意げにドヤ顔で高杉の此処がイイなどと云うから腹が立った。
「・・・」
そう、確かに好かったのだ。神威が突いた場所は的確だった。
高杉の中を指で弄り愉しそうに此処がイイのか、と問うた神威の顔を思い出してぞくりとする。
神威が間違ったわけでは無い。神威は正確に高杉が教えた通り高杉の好む場所を突いた。
ただ、神威をそうして己が躾けた事実に苛ついた。
「チッ・・・」
これではまるで高杉が神威を仕込んだ様では無いか。
万斉がこれを聴いていれば「事実でござろう?」と、さも当然の様に云われるのがありありと浮かんで想像しただけでも癪だ。
つまりなんだ、癪なのだ。
神威が高杉に身体で示したそれが図星で、だから我に返って仕舞った。
( ・・・云わなけりゃ、付き合ったのによ )
まだまだ餓鬼だ。見せびらかす様に己の手管を自慢するようでは興醒めだ。
「ばぁか」
黙して語らず、漢を見せろってんだ。
不躾な年下の子供を自分好みにうっかり躾けている事実に苦味を覚えながら高杉は煙草の煙を盛大に吸い込んだ。



その後、三日神威は高杉に通い詰めた。
「ごめん、本当に悪かった、今度はヘマしない」
「・・・どうだか」
高杉に差し入れにと持ってきた上等の酒を注ぎながら神威は云う。
一度地雷を踏んだ神威は的確に高杉との距離を保ち、あれやこれやと高杉が好みそうなものを持ち込んでは機嫌を取り続け、三日目の夜、極上の酒を呑み交わすまでに距離を回復した。
「・・・だから、イイ?」
上目使いで問う神威は何処まで計算しているのか。
( 全く、可愛げがあるのか、ねぇのか・・・ )
「仕方あるめぇ・・・」
そしてやっと久しぶりの性行為を伴った抱擁が許されたと云う。
ちなみにこの件について万斉が何かを云うかと高杉は少なからず身構えていたが何の小言も無かった。
万斉曰く、「拙者関わるのは御免でござる」だそうだ。
ちなみにその後も注意はしているものの神威は何度か高杉の地雷を踏み、高杉に追い出されては最終的に高杉の部屋の前で真っ裸だろうがなんだろうが、己と高杉の関係について赤裸々に大声で捲し立てるという半ば脅しともとれる開き直り戦法を神威は取った。そのあまりの醜聞に折れた高杉が神威を殴りながら部屋へ招き入れるという結果に落ち着いたそうだ。
痴話喧嘩はなんとやら、後は勝手にやってくれ。


15:犬も食わない。

お題「裸の大将」

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