※連作の方の設定に乗っているので神威が童貞だった設定です。 高杉との行為はいつも神威にとっては細心の注意が必要だった。 何せ高杉を掴む時、力を入れては駄目だ。 高杉は侍で、地球種の人間だ。夜兎のように『頑丈』では無い。 触れる時注意しないとこの身体は簡単に崩れてしまう。脆い生き物だ。 だから神威は『練習』した。適当に地球種のどうでも良さそうな男を一人掴んだ。 そしてどれほどの力加減をすれば痛がるのか、或いは折れるのかを『練習』した。『練習』された方は堪ったものでは無いがどうせ始末しろを云われていた相手だ。別段問題無いだろう。最期は一思いに殺してやったのだから文句も無い筈だ。 とにかく神威はそういった予行演習をしたのだ。 そしてどの程度力を加えればいいのかを学習した。結果わかったのは『羽に触るように優しく』だ。 高杉と対峙する時、褥を共にすることを許されてから神威は理性の箍が外れそうになるのを常に無い辛抱強さで押さえつけ、何度も胸の内で『羽に触るように優しく』と念じながら高杉に触れる。 そして高杉との褥の中で一番大事なのは我慢だ。 これも自分に無いことだ。 阿伏兎が聴けば卒倒するような辛抱強さで以って神威が高杉の望む角度で突けば許されているようで堪らない。 男とスルなんて神威は高杉に遭うまで考えたことも無かった。 まして女ですら抱く前に殺して仕舞っていたのだ。性欲より破壊欲の方が強い神威に阿伏兎がどれ程手を焼いたか。 けれども高杉を前にして神威は初めて強い衝動を覚えた。 ( きれいだ ) 片目の男。 辺境の地球とかいう星の蛮族の一派の長である男。 神威からすると高杉はそういう認識だ。 高杉とて神威のことなど莫迦力の夜兎の海賊程度の認識しか無いに違いない。つまりそのくらい神威と高杉の文化の壁は厚い。 互いの文化は歴史や生き方に大きな齟齬がある。 それほどの違いがあっても欲するのは簡単だ。 望むのも簡単。それでも神威は高杉への狂いそうな想いを抱えながらも慎重になった。 高杉が異種族だからこそ慎重になった。獲物を遠くから狙うように、どういった距離が相応しいのか測る様に。 逆にそれこそが高杉の気を惹けて今こんな関係になったのかもしれない。 とにかく神威は酷く慎重に、今までに無い辛抱強さを以って高杉と対峙してきた。己と高杉の間にあるこの感情が何なのかを確かめる為に。その末にいよいよ情欲が抑えられなくなり半ば襲う様に高杉の身体を手にしたのは極最近のことだ。 それから褥を共にしてその都度下手糞だと殴られて、辛抱強く高杉の望む遣り方を学習したのは神威だ。 高杉の好い場所を捜して、舐めて時には甘く噛んで、そして充分に解してから挿入して達する。 この行為に於いて我慢が一番大事だった。 最初の頃のように神威がさっさと達して仕舞ってそれでも高杉を莫迦みたいに揺らせばお気に召さなかったらしく下手糞と散々罵られて、次に高杉の云うように我慢してみれば其処からは別世界だ。 我慢に我慢を重ねて、脳の血管が切れそうなほどに高杉の心地良く狭い中を自身で抉っても尚我慢して、神威が苦しそうにすればするほど高杉も好くなるらしく、それがどういったものなのか神威にはわからなかったが、兎に角滅茶苦茶気持ち良かった。 達せなくて死ぬほど辛いのに神威が高杉を揺らすのを止めずに我慢の果てまで到達した時、高杉がとても気持ち良さそうに揺れ、ついに神威の手管に達した時の快感ったら無い。 それは女とも違う。女のあの柔らかさが神威は駄目だ。阿伏兎はそれがいいのだと云うがどうにも苦手だった。 ぶよぶよして気持ち悪い。いつかは確かに阿伏兎の云うように子供を作って成長した子供と殺し合うのも楽しいだろうが、それでもまだとてもそんな気分には成れない。 かといって神威は男が良い訳でも無い。 男と寝るなんて戦場では別段珍しい話でも無いが、男にしか反応しないという訳でも無い。というかあまり興味が無かった。 こういうのはマウントポジションの問題だ。組織で一番弱い奴が犠牲になって捌け口に成る。 暴力的な意味でも性的な意味でも。少なくとも神威が居る世界ではそれが普通だ。だから男が犯されるというのは弱い証拠だ。 神威はそれを少なからず軽蔑もしていたし、そういった輩に興味など欠片も無い。いつだって強者として君臨する神威には決してわからない事だろう。 ( なのに高杉だけはそのどれもとも違う・・・ ) 綺麗だと思う。 眼の前で神威の下で脚を淫らに開き聲を抑える年上の男は確かに美しい。 美醜など感じたことも無い神威だったが高杉だけは本当に綺麗だと思う。 その気怠げな雰囲気が堪らない。立ってるだけで誘われるような心地になる。 以前高杉が綺麗だと阿伏兎に洩らしたことがあったが、阿伏兎に依ればあれは綺麗というより綺麗の種類が違うのだそうだ。曰く、高杉は『イイ男』なのだと。 遊び慣れているのだと、だから手前が遊ばれてるんだとも云われた。 けれども神威は確かに高杉が美しいと思う。そして高杉に遊ばれているとも不思議と思わなかった。 少なくとも神威にとってこれは遊びでは無い。 高杉を識るのに必要な行為だ。 この想いが何なのか、何故高杉に対してのみ己は慎重になるのか、何故高杉に対してのみ真摯になるのか。 それを探る為の行為だ。 でも本当はそんなの建前でこの身体を暴きたいだけなのかもしれないとも行為の激しい情欲の中で想う。 だってこの気持ち良さは反則だ。 こんなの神威は知らない。高杉に遭うまで識りもしなかった。 「高杉、脚もう少し開いて、」 「・・・っ」 直に達しそうなのか高杉の片目が苦しそうに揺れた。 それを見ると堪らなくじわりと胸の奥から何かが零れる気がして、いつも神威の胸中は揺れる。 己はこの男をどうしたいのか。 ( 甘く蕩かせて、溶かして ) ( 奥の奥まで知りたい、俺で満たしたい ) ( この世界で俺だけが本物だとこの男に知らしめたい ) 何を以って本物と云いたいのか、神威にもわからない。 ただ、何もかもが終わって最後にこの男が掴むのが己であって欲しい。 否、己こそが高杉を掴んでみせる。 「気持ち、いい?」 「うる、せ、クソ餓鬼っ」 びくりと高杉が揺れる。 本当は神威の弱い理性などとっくに千切れそうだ。高杉との性行為はいつも神威を狂わせる。神威の雄を高杉は酷く刺激した。だから神威はこうしてつらつらと胸の内のことを考えてこの男と己との間にあるものを必死で考えて達するのを我慢する。我慢して我慢して我慢して、その先に真っ白になって脳天が慄えるほどの境地がある。 んん、と神威が聲を洩らしどうにか擦れる聲で「イキたい」と告げれば高杉が達しそうに震える。高杉自身も神威が挿入した時には萎えていたものが既に固い。それを指で優しく擦りながら神威は高杉を追い詰めた。 ( あー、これだ。これ、 ) 苦しいのに気持ちいい。 堪らなく苦しい、息を吐くのも辛いのに、それがイイ。 我慢だ。我慢の果てがもうじきクる。 「・・・っ」 「う・・・、」 高杉が達した直後神威が達する。 甘い痺れが全身に回って堪らない。 こんな快楽高杉とじゃないと味わえない。 少し落ち着いてから神威がいつものように抜こうとしたら不意に聲があがった。 「う、あっ」 ピリリとした電撃が奔る様な感覚。 ( なんだ・・・これ・・・ ) 思わず神威が高杉を見遣れば鍛えられた高杉の腹に高杉の吐きだした物が盛大に散っていて堪らなく淫靡だ。 試しに神威がもう一度高杉を軽く揺らせば悲鳴のような聲があがった。 「く、・・・っ、てめぇ、」 いい加減に、と口にした高杉を茫然と見つめ、その直後神威の眼に火が灯った。 達したばかりだというのに再びびくびくと感じ入っている様を見せられれば当然の反応だ。 云うなれば野生の獣が獲物を狙う瞬間を見付けた感じ。じわじわせり上がる快感の炎に意識が染められる。 「ごめん、滾っちゃった」 「ふざけんな、ッ・・・ああ、くそっ・・・!」 明らかに神威のものに感じて揺れる高杉が堪らなく神威を刺激する。 肌に浮く汗も聲もその濡羽のような漆黒の髪も高杉の何もかもがエロいったらない。 これは反則だ。優しく優しくと念じながらも神威は律動が止まらなくなるのを感じた。 「また出すよ、ごめん、あとで殴っていいから・・・ッ」 「うあ、バカ、や、ろッ・・・ッ!」 何度も抜き差しして己を搾り取る穴に穿つ。 そして導かれる快楽に真っ白になりながらも、神威は夢中でその身体を貪った。 痛いくらいに絞られる感覚が堪らない。高杉の低い聲もエロくていけなかった。こんなの聴いたら止められるか。 後で酷く機嫌が悪くなるとわかっていても止まらない。止まるもんか。夢中になるとはこのことだ。神威は衝動に忠実に高杉を常より少し強く押さえつけ夢中になって高杉を貪った。 汗が滴る。神威が舌を絡めれば今度は高杉から激しく求められた。 そして満たされる。 今この瞬間、この男は確かに己の、この神威だけのものなのだという確信が持てて、何度も達しながら酷い快感の中全てを呑みこむようにその美しい男を神威は朝まで揺さぶり続けた。 そして翌日。 また朝帰りした神威を呆れた顔をして迎えた阿伏兎に神威はぽつりと呟いた。 「阿伏兎・・・俺は魔物を識ってしまった・・・」 「は?何云ってんだ、団長?」 「あれを識ったらもう他とか無理だろ・・・」 「だから何が?」 何ってナニだ。 最後は指先ひとつ動かすのも億劫そうな高杉を甲斐甲斐しく世話して、それから避けたら高杉の機嫌が益々悪くなるのでちゃんと殴られてから神威は高杉の部屋を辞した。ふわふわする心地で気付けば船に戻っていた次第だ。 あれは魔物だ。魔物に違いない。全くなんて男だ。気持ち良いったらない上に、堪らない。 ( 嵌って仕舞った・・・ ) そう嵌るだ。文字通り神威は高杉にどっぷり嵌ったことを自覚した。 だってあんなのずるい。散々神威が我慢して気持ち良くなって終わろうとすればあんな聲、出されたら止められるわけない。その上高杉も今回は気持ち良かったのか神威の努力と忍耐の甲斐あって珍しく達して呉れたのだ。事後は確かに不機嫌だったがあんなの本気じゃないことぐらいもう神威にもわかる。その心地がなんとも云えなくて、まるで浮付いた気分だ。 相手は男だ。異種族の、綺麗な魔性の男。 嵌って仕舞ったら最後、地獄の底の底まで一緒に踊るしかない魔物だ。 「なら精々踊るとするか・・・」 地獄でも褥でも、高杉となら何処までも踊ってやる。 そう想いながら神威は浮付いた己の気持ちを受け入れた。 12: ふわふわくらくら |
お題「眩暈」 |
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