いつもそうだ。
いつもそうだった。
神威だ。
高杉の褥に夜毎訪れる子供。
見目だけなら少女と云っても通じそうなほどに危うい子供。
その中身がどれほど凶暴かを知っているだけに高杉は息を詰めた。
「・・・っ」
「もう少し・・・」
もう少しだという神威が憎らしくて高杉は下肢に力を込めて中のものを刺激してやった。
「うあっ」
それだけであっさり吐精してしまうのだから神威は速い。速いというより若さなのだろう。
高杉は、はあ、と息を漏らし、頭上の神威を見上げた。
「ずるい」
「手前の我慢が足りねぇんだろ」
高杉が枕元の煙草盆に手をやり、煙管に火を点ければ不満そうに神威が高杉の中から退いた。
腹いせにか神威自身を引き抜く瞬間一瞬入口の浅い場所で少し擦られてそれに高杉がびくりと慄えるが、何でも無い振りをして遣り過ごす。此処で妙な態度をしてしまったらこの子供に火を点けるだけだということも高杉は既に何度目かの逢瀬で熟知していた。
「高杉っていつもクールだよね、俺の手で善がらせたいのに」
「はっ、そういうのは善がらせれるようになってから云え」
ちぇ、と口を尖らせる神威を見るとどうにも甘やかしたくなる。
甘やかしたくなるが甘やかしすぎるのもいけない。こういうのは加減が大事なのだ。
その上高杉が僅かに身じろげば神威が高杉の中に放ったものが零れ落ちるのがわかってその気持ち悪さに高杉は顔を顰めた。
「俺ぁとやかく云うつもりはねぇが、毎度中に出すってのはどうなんだ、ちったぁこっちの後処理も考えろ」
高杉が苦言を漏らせば神威は汗の張り付いた前髪を掻き上げながら高杉の方へ向き直った。
その蒼い眼が高杉を捉える。その度に高杉は妙な心地に駆られた。
「それは出来ないよ、俺は高杉の中に出したいんだ」
あっさり云われて高杉は煙管の煙を吐き出しながら呆れた聲を漏らす。
「俺ぁ、女じゃねぇから孕まねぇよ」
孕むわけが無い。なのに神威は執拗に高杉の中に出すことに拘った。
その拘りに得体のしれないものを感じて高杉が神威を見上げる。
目線を交わしながら高杉の指に神威の指が絡んだ。
性的なそれを感じさせる仕草で指が高杉の肌を撫ぜる。
何時の間にこんなことを覚えたのか。
覚えさせたのは己かと更に高杉は内心で苦味をかみ殺した。
綺麗な餓鬼だ。随分と顔の整った。
高杉と神威の関係は表向きは逆に思われていることの方が多い。
容姿だけなら当然とも云えた。少し年はいっているがまるで神威が高杉の稚児のようだと思われるのだろう。
そうではない。実際は高杉が神威を受け入れる側なのだ。
神威を稚児のように思える者はこの獣の本性を知らないからそんなことが云えるのだ。
現に今もその子供は高杉を組み敷き今にも食らいつきそうな距離で圧し掛かってきている。

「孕むかもしれない」

孕むかもしれないと、神威は云う。
「莫迦か手前は・・・」
「だって俺は夜兎で高杉は地球種だ、もしかしたら孕むかもしれない」
「・・・・・・」
「孕んでよ、そして俺の子を産んでよ」
凶悪な癖に指に絡む神威の仕草は慎重だ。
いつもそうだ。
神威はいつもそう。
高杉に触れる時、慎重に扱う。恭しく、壊さないように。
常に高杉だけを見据えながら、全身で高杉を欲する。
それが、そのいじらしさが高杉の胸を打つ。
だからこそ今もこうして高杉はこの子供と夜を共にしているのではないか。
神威の欲しているものが高杉にはわかる。
神威が答えを探し続けているものの名をきっと己は知っている。
残せない。この子供に高杉は何も残せない。
それがわかっているからこそ神威は高杉にこうして迫る。
それは何かを残して欲しいと云う切実な願いにも聞こえる。
先に高杉が逝くとわかっているからこその願いかもしれなかった。

「孕まねぇよ」

あるいは既に孕んでいるのだ。
指を絡め生々しく口付けを交わし、互いを貪り合う夜毎に繰り返されるこの醜くも純粋な愛憎劇に、孕むものの名を高杉は知っている。
手を伸ばし地獄の底まで全てを欲しいと思う浅ましい感情の答えに高杉は気付いて仕舞った。
舌を絡め、足を絡め誘う。誘う無様に高杉は眼を閉じる。
欲しいのなら奪えばいい、その言葉だけはどうしても云えまい。
高杉にはやることがあり、そしてその道はいつかこの子供と違えるのだろう。
地獄の底で育まれる透明なそれを欲しいと思っても気付いてはいけないのだ。
気付けば最後、もがくことも出来ぬまま堕ちていく。
「孕むものか・・・」
掴んでほしい、掴まないでほしい。
悍ましくも甘美な感情を知っていたが、その名を見ない振りをした。


02:愛の海

お題「体をつなげて」

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