※子神威ですのでご注意下さい。


運悪くその日その場所に高杉は居合わせて仕舞った。
宇宙船のドックへの通路を歩いていたのがいけない。
目の前に居る長身の男が神威の腹心である阿伏兎だと気付いた段階で無視して前に行くか、後ろに退けばよかったのだ。
阿伏兎の隣には常に居る筈の上司の姿が無い。
神威はどうした?と問おうとして足元を指差された。

「若返ったぁ?」
「なんでも任務で行った先で薬品を浴びたんだと、個人差があるが十日程度で戻るってぇ話だ」
また子が甲板にあがっていたら高杉が見えたので迎えに降りれば目の前には見知らぬ子供が居る。
しかも最近目障りなあの夜兎とかいう餓鬼にそっくりなものだからまた子は露骨に顔を顰めたが、高杉の服を掴んで離さない子供は紛れも無く春雨第七師団団長兼宇宙海賊春雨提督である神威なのだそうだ。
「悪ぃ、今から急ぎの任務なんで団長が戻るまで預かってくれねぇか?」そう振ったのは阿伏兎だ。
珍しく阿伏兎から話しかけてきたと思えばこれだ。勿論面倒は御免だ、と高杉は即座に否定したが遅かった。
阿伏兎の後ろに居たと思われる神威が高杉の着物の裾を掴んだのだ。
それからは何をしても駄目だった。離さないのだ。
「記憶が飛んでるらしいが、好みは同じらしいな、あんた団長に好かれすぎてらぁ、記憶は直に戻ってくるんだと、まあただの莫迦力のある餓鬼だと思ってくれ、缶詰素手で空けれるから便利だぜ」
「缶切りなら間に合ってる」
高杉の拒絶も空しく押し付けられた。
「こっちも迷惑してたんだ、云う事聴きやしねぇ、クソ餓鬼預かってくれたらそれなりに礼はする」
じゃ、急ぐからと神威を押し付けられ高杉は止む無く神威を連れて艦に戻ったのだ。
こちらだって江戸に行かねばならないのに全く面倒なことである。
けれども神威は高杉から手を離そうとしない。そしてこの子供にそれなりに絆されている身としては死ぬほど面倒ではあったがせめて缶切りとして使ってやろうと思い直した。
「へぇ、世の中には色んな物があるんですね、晋助様、つか、この餓鬼、あいつとは思えないくらい可愛いっスねー」
また子が推定五歳児前後になって仕舞った神威を指して云う。
確かにそうだ。神威は元の姿でも充分すぎるほど容姿が整っていたが今は子供の形だけあってまるで少女である。
しかし遅かった。相手はあの神威である。可愛いーと言葉を漏らしたまた子に神威は笑顔で云った。
「うるさいよブス」
「このっ、クソ餓鬼っス!中身マジであの餓鬼っス!気を付けてください晋助様!」
銃を向けようとするまた子を制しながら高杉は神威を抱き上げた。阿伏兎に神威を渡された時からそうであったが神威は今裸足であったし服も元着ていた上着を紐で括ってそれを引き摺っているような様である。子供用の衣服など無かったのだろうから仕方無いがこれではあんまりな恰好だ。
「悪ぃな、暫く世話をすることになったから服とか見繕ってくれ」
「わかりました、晋助様がそういうのなら、来島また子!気合入れて用意してくるっス!」
ばたばたと奔るまた子を見送りながら高杉は神威の髪を撫ぜる。
子供の髪がふわふわしている所為か常よりも柔らかかった。
少し撫ぜれば神威は大人しく高杉にしがみ付く。高杉のことは忘れていると云うのに途端に素直になるのだから神威はわかりやすい。
「大人しくしてたら連れて行ってやる」
「うん、高杉といく」
高杉の前では神威は恐ろしく良い子であった。
こんなところまで元と同じなのだから哂って仕舞う。
そして程無くして高杉は神威を連れて江戸に入った。

「なんか神威の子供みたいのがいるアル・・・」
仕事帰りに歌舞伎町に向かって歩いていた神楽が立ち止った。
思わず銀時が振り返る。
振り返ればあれだ。路地の屋台の前に笠を目深に被った見知った男が居るではないか。
目が合った瞬間一触即発の状態に銀時は息を呑んだがそれは呆気なく子供の聲で崩れた。
「これたべたい」
舌足らずな聲で漏らされる愛らしい聲はまさしく子供のそれであった。
銀時とて事実を知らなければあら可愛いお子さん、と云えただろう。
そのくらい可愛い子供が高杉と共に居る。
おまけに服は最近流行の子供ブランドだか何かのもので目に見えて高いものだとわかるそれだ。
靴から小さな傘までもって全く生意気そうな餓鬼が高杉と居る。

「ちょ!高杉くーん!これ何処の子?この凶悪そうな餓鬼誰の子ぉ!?」
思わず昔のノリで銀時がツッコむほど異様な状況であった。
いつからこの幼馴染は子連れ狼になったのか。そもそもこれは誰の子なのか。
高杉を見遣れば一瞬面倒そうに顔を顰めた。その間に新八が子供を撫ぜようとして逆に地面にのめり込んでいる。
「マジでやばいんですけど、お前いつからこんな餓鬼連れてるんだよ!やばいよこの餓鬼!なんか殺気でてるよ!」
「見れば見るほど神威そっくりアル」
神威とは神楽の兄であった男の筈だ。
吉原で出遭ってからこっち非常に厭な印象のある男だったように思う。
出来れば二度と会いたくない。けれども云われてみれば確かに神威そっくりであった。
銀時はもう一度高杉を見遣る。
すると高杉は苦虫を噛み潰したような顔で云った。

「・・・俺の子」
「嘘云ってんじゃねーヨ!何説明が面倒臭いから自分の子ってゆってみました的なことになってんの!?これ普通じゃねぇだろ!この感じ!食い意地張った凶悪な感じ!うちの神楽ちゃんと明らかに同じだっての!」
白い肌に珊瑚色の髪に青い瞳とくれば確実に夜兎である。それも銀時の預かっている神楽と同じ遺伝子のものの筈だ。
「おとーさんは神威でおかーさんが高杉!」
可愛らしい聲でいけしゃあしゃあと云い放ったのは神威である。聲は愛らしいが中身は完全にクソ餓鬼であった。
「産んじゃったの!?ねぇ、ついに産んじゃったの?ヅラが発狂するよ!」
「違ぇよ、俺ぁ産んでねぇよ」
「じゃあ、神楽の兄ちゃんは姉ちゃんだったってか!?女は選べよ!」
「神威は男アル、ちゃんとチ○チ○ついてたアル」
ぎゃーと騒ぐ銀時を尻目に高杉は既にどうでもよくなって神威が欲しがっているイカ焼きを買ってやった。
阿伏兎の云った通り神威は徐々に記憶が戻っているらしく容姿は五歳児のままであったが神威はこうして確信犯的な発言をしては周囲を惑わせて遊んでいる。
それに溜息を漏らしながらも、高杉は神威を抱き上げた。
満面の笑みでイカ焼きを頬張る様はなんとも愛らしい。高杉のいう事だけは良く訊くのも悪くは無い。
それに指を通した時の髪の感触は気に入っていた。

「帰るぞ、神威」
「はぁい、帰ったら昼寝するから高杉も一緒にしよ」
「仕方あるめぇ・・・」


15:家族ごっこ

お題「若返りの薬」

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