※「恋だの愛だの」シリーズ設定。現代パラレル。マフィア神威×リーマン高杉。 事前に用意された衣服を素早く着替え神威はホテルの一室を出た。 仕事だ。 神威達はこの裏社会の掃除屋だ。 主な仕事は殺しである。殺し専門のこの実動部隊が神威の仕切る春雨最強の部隊、第七師団だ。 どちらかというとそれはヤクザの殺し屋というよりは軍隊のそれに近い。 実際神威を教育した師である男はそういう風に神威を育てたしそのお蔭で致死率の高いこの部隊で傷一つ無く神威は十代の若さで団長に就任した。実際はその師に押し付けられたと云うのが正しいが、とにかく神威の仕事は専らそれであったし、殺すこと以外に己に他の才能があるとは思えないので今のところこれが天職であると神威は思っている。 「ターゲットは?」 『移動中、一分ほどで部屋に到着予定』 部下からの報告に神威は頷き銃の安全装置を解除する。 阿伏兎は外でターゲットの護衛を狙撃する用意をしている。 神威達は如何なる相手も素手で殺せたが銃やナイフを使った方が合理的なこともある。 故にあらゆる武器に精通していた。 春雨の良いところは神威が殺しをするための装備を整えることに予算を厭わない点である。湯水のように金を使い、あらゆる装備が手に入るのは魅力的ではあった。 「3・2・・・」 カウントダウンをして神威は部屋に押し入り、撃った。 立て続けに三発。残りの二人は阿伏兎が狙撃で沈める。 「全弾命中っと、ちょっとつまらないかな」 完全に息の根が止まっているか確認して神威は死体を足で転がした。 全てが一瞬で終わる。 直前の心地良い緊張とは裏腹にあっさり片付いて仕舞うことのつまらなさに神威は物足りなさを感じて息を吐いた。 「もうちょっと骨があるといいよね」 『いいから早くしろぉ、団長』 阿伏兎に急かされて神威は傍らに待機していた部下と共に衣服を着替えた。 ホテルの清掃員の服装から黒のスーツに着替える。 黒い髪の鬘を被り、眼鏡を装着すればもう別人だ。 先程まで着ていた衣服は従業員用のものだ。それを元あった場所に戻せば問題無い。 廊下に待機していた部下に用済みの衣服を渡し神威は悠々と部屋を出た。 ホテルの豪奢な絨毯を踏みながら神威は今度のオフはこのホテルを使ってやろうとそんなことを考える。 携帯電話を取出し、今一番聲を聴きたい相手にかければ数度のコールのあと、相手が出た。 「今からそっちに帰るから暫く仕事休んでよ」 少し渋られたが神威の愛人である高杉は結局神威を拒めない。 それが愉快だ。 帰ったら何をしようか、今回は幸いにも国内だからあと一時間もすれば高杉に逢えるだろう。 神威は上機嫌で堂々とホテルの正面玄関から出て、待機させていた車に乗り込んだ。 * 「・・・で何でその恰好?」 十日ぶりに逢う愛人に指摘されて神威は気が付く。 「あり、そういえば脱いでなかった」 行き成り神威が黒髪にスーツ姿で高杉の滞在するホテルの部屋に来た挙句眼鏡まで装着しているのだ。カラーコンタクトは事前に装着済みであったので今神威の目の色はヘーゼルカラーである。つまり殆ど別人であった。 神威は無造作に鬘を外し床に投げ捨て、度の入っていない眼鏡とカラーコンタクトを慣れた手付きで外し、ネクタイを緩めた。 「仕事だよ、一応ね、隠蔽工作っていうの?」 「映画みてぇだな」 「映画?そういうのがあるの?今から観る?」 「普段他に何着てんだ?」 映画を用意させるように神威が内線で指示を出す。それを見遣りながら高杉はバーカウンターにある適当なウイスキーを手に取りそれをグラスに注いだ。 高杉とて仕事の途中だったのだ。今は互いにスーツである。 高杉の事業は相変わらず忙しかったし、今日抜けたのは少し痛いが此処で神威にごねられても後が面倒なので付き合うことにしたのだ。 今頃万斉は仕事に忙殺されているだろう。 けれども神威のスーツ姿など高杉は一度も見たことが無い。それが見れただけでも儲けものではないだろうかと高杉は眼を細めた。 思ったよりも似合うそれ。黒髪の鬘など被っているから本当に神威だとわからないほどだ。普段の明るい髪色を見慣れているだけに目に新しい。既に高杉の背を抜いて仕舞っている神威のスーツ姿はよく似合っていた。案外こいつが普通に大人になればこんな感じではないかと思うほどだ。神威に限ってそれは有り得ないが。 「清掃員とか、警備員とか、軍服ってのもあるなぁ、変わり種はお医者さんとか」 あはっと笑う神威に高杉も思わず口端を上げる。 「コスプレだな」 「何?そういうの興味ある?」 ねぇよ、と高杉は手にしたウイスキーのグラスを神威に渡した。 「まあ、どうせ脱ぐんだ。やる事は同じ」 「違いねぇ」 互いのグラスを鳴らし、それから謀ったように口付ける。 高杉のの身体を床に組み敷きながら神威はこの休暇をどう過ごそうかと、喉を鳴らす。 「映画観て、あ、泊まりたいホテルあるんだ、今日行ったとこが結構良くてさァ」 「殺しで行ったんだろうが」 「だからプライベートで行こうって」 「その神経疑うな・・・」 呆れたように溜息を漏らす高杉に神威は遠慮なく舌を絡め、そして互いを包む野暮な衣服を脱ぎ捨てた。 13:スーツと眼鏡 |
お題「コスプレ」 |
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