※「恋だの愛だの」シリーズ設定。現代パラレル。マフィア神威×リーマン高杉。


神威の愛人にしたという高杉晋助は無理矢理日本から神威が攫うように連れてきた男だ。
何が気に入ったのか具合が良かったのだと神威が高杉を己のものにして囲い込んだ時に阿伏兎は頭を抱えたくなった。
代わりに甲斐性の有る様をみせたいのか神威が仕事に精を出すようになったことだけが救いではあったが、上司である年若い神威の趣味を疑いたくなったのも事実だ。
そのうち飽きるだろうと思っていたが阿伏兎の予想とは裏腹に待てども待てども神威は高杉に飽きるそぶりを見せない。
一体何が良かったのか、好かったのはナニであろうが、それでも年上である高杉を犯して何が楽しいのか。美人であるとは認める。高杉は独特の色気がある男だ。その気怠げな雰囲気には危うい魅力がある。それでも一般人だ。
この世界のことなど何も知らなかった男。
普通に育って普通に働いて神威が攫わなければ今も普通にサラリーマンなどしてバーで酒でも呑んでいたのだろう。
阿伏兎達の知らない平和な現実に生きていた筈だ。
神威がそれを奪い囲った。
無理に高杉を抱き恐喝し、こちら側に引き摺った。
高杉の気の強さは気骨のようなものを感じて阿伏兎も嫌いでは無かったが、如何せん問題は性別である。
阿伏兎は男同士というそれを否定はしないが非生産的ではあると思っている。
現に神威とてそれがどれほど無意味なことか理解しているのだ。
なのにそれに固執する我らが団長は今日も今日とて愛人に夢中である。

神威の携帯番号は基本的に一部の人間しか知らない。知っているのは上層に位置する元老や神威の師である夜王鳳仙、そして神威の愛人である高杉くらいだ。それ以外の仕事の電話は阿伏兎が受け取っているし、神威や師団のスケジュールの調整も阿伏兎の仕事である。
そして神威の直通携帯の番号というのは恐ろしくレアなのだ。この裏社会最強の春雨第七師団団長である神威と直通回線が持てるということは世界中何処にいても敵無しということと同じだ。いわば究極のセキュリティと暗殺術を手にしたようなものである。
だからこそ神威は己に直通でかかってくる電話を滅多に取らない。元老でさえ阿伏兎を仲介せずに神威に個人的な仕事を依頼しようとすれば直通回線に十回かけて一回取ってもらえるかどうかなのだ。神威が世界中何処に居ても繋がるという強力な回線を使っているが電話を取る筈の神威が滅多に出ないという回線でもある。
それほど神威の直通回線というものは非常に価値の高いものであった。逆に言えば神威に直通電話をかけてはほいほいと出られて仕事を遂行されればは裏社会のパワーバランスが崩れるので神威への直通電話は極一部の人間が知る秘匿回線で良かった。
それで良かった筈だが今阿伏兎はこの状況に更に頭痛がするのを感じた。

現在神威達第七師団はジャングルの只中に居る。
勿論阿伏兎達とて好き好んでこの場所に居るわけでは無い。
現地の武装勢力に神威達が追っていた男が逃げこんで仕舞ったのだ。
元老達の圧力を待ってから身柄の引き渡しを要求しても良かったが政治的な問題が絡んでいるために早急に始末が必要なことから阿伏兎達は神威を先頭に戦争のようなことをする羽目になっている。
ジャングルなのだから視界は悪い上に銃撃の嵐だ。その上手榴弾まで飛び交う中で事態は起こった。

電話だ。
神威への直通回線。
通常なら出ない。そもそも携帯が鳴っていることなど気付かない筈だ。
しかし間が悪かった。神威は暗殺部隊の長らしく携帯の着メロは切っていたがバイブレーターは設定していたらしい。
通常なら気付かないその振動に運悪く気付いて仕舞った。
そして銃を片手にそれを取る。
「あ、もしもしー」
「ちょ、取んのかよ!団長!今戦闘中!」
ばかー!という阿伏兎の叫びも空しく、神威は会話を続けて仕舞う。
そうあの神威が一度のコールで電話に出たのだ。相手は誰かわかりきっている。
「高杉だろ、あのバカヤロー!」
「高杉を莫迦っていうなよ、え?ごめん、こっちの話、今ちょっと立て込んでてさぁ、え?何?」
パパパパパンッ、とマシンガンの飛び交う音がして、近くに落ちた手榴弾が爆発する。
咄嗟に神威の首根っこを掴み阿伏兎が巨木の影に引っ張った。
「あーごめん、ちょっとうるさかった?すぐ大人しくさせるから待ってよ、うん、うん」
その間も阿伏兎が応戦しながら背後の援護を確認する。
神威はそれを気にした風も無く愛人とのおしゃべりだ。
全く厭になる。
けれども神威は素早い動きで前衛の二人の頭を正確に打ち抜き、歩きはじめる。
優雅にこの弾の嵐の中散歩でもするようだ。
右からの狙撃を交わし、撃ち殺す。
その間に左から来る狙撃手を阿伏兎が撃った。
全く化け物のような動体視力だ。
それにぞっとしながらもまるで此処が街中のカフェのような様子で神威は会話を続けた。
「うん、わかった、じゃあ用意させて直ぐ帰るよ」

神威が携帯を切った瞬間、勝敗は決まった。
気付けば神威は駆け出し、三人を撃った。そして車で逃げようとする男をナイフで刺す。
首を掻っ切れば終わりだ。
残った者達は投降の意思を示すが神威が首を振った。
真実を知る者は全て消せということだ。
阿伏兎達はルールに従い、それら全てを殺し、焼き払った。
そしてその中に立つ神威にいつもぞっとする。
この男は獣だ。己達も相当修羅場をくぐっているが神威の強さはその比では無い。
殺す為に生まれたような男だ。
餓鬼の癖にその強烈な力に阿伏兎はいつも打ちのめされる。

「ヘリは?」
神威が振り返り阿伏兎に問う。
それに頷き阿伏兎が己の携帯を確認する。衛星で位置を確認し時間を逆算する。
「合流地点まであと一時間ってとこだな」
そう阿伏兎が言い放てば周りの空気が凍った。
文字通り凍ったのだ。目の前の上司の顔には餓鬼に似つかわしくない笑顔が張り付いている。

「五分で来るよね?」
神威のその言葉に阿伏兎は絶望感さえ感じながら、どうヘリを調達したものか、頭を抱えた。





「それで遅れちゃったんだ、ごめんネ、高杉」
「俺ぁ努力はしたぞ」
一時間かかるというヘリを二十分で来させたのだ。その努力は認めて欲しい。
そして更に阿伏兎は神威が手にしたものに気が遠くなった。
「此処のピザで良かった?」
そう、巷で出来た有名店のロゴが入ったピザだ。
ただのピザと思うなかれ、窯を取り寄せた特別性のもので焼かれたとびきり高いピザだ。
人気もあり予約で埋まっていると云われている一品だった。
高杉は遅い、と神威にごちながらもそのピザを口に運んだ。
神威もそれに続く。
美味しいね、と食べる様は微笑ましくもあったが、阿伏兎は叫んだ。


「ピザの宅配してんじゃねぇぞ!莫迦団長!」


08:デリバリーは
電話一本。

お題「デリバリー」

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