回答を求めない/※海月×山吹
時折、この男の目指す先には何が残るのか、と問いたくなることがある。

海月は昨日からこちらに泊まりだ。
と云っても別に邪魔にはならないし、わりとよくあることなので
山吹もたいして気にしていなかった。
いつものように二人分の夕食を山吹が用意し、
必要と感じたら口にするでも無く海月が隣で手伝った。
後は風呂を提供して海月は部屋の壁に凭れながら本を読む。
それだけの日常だ。
彼を邪魔と感じたことも無いし、むしろ同じ空間にいることが
ひどく不思議なことに思えてその空気を気に入ってもいた。
しかし珈琲を淹れようと立ったところで腕を掴まれた。
「海月?」
思ったよりずっと強い力で引き寄せられてよろめいた。
海月に抱き込まれる形で山吹は倒れこむ。
耳元で低く「早月」と呼ばれて理解した。
ああ、今日は、その日だ。
古いあだ名で、もしくは下の名で呼ばれればそれは合図だ。
実に十日毎の間隔で訪れる海月の衝動は正確だった。
以前、どうしても駄目だと、突っぱねたことがある。
次の日に大事な研修を控えていたからだ。
だからそれが終ったあとなら、とうっかり云って仕舞ったら、
後日思い出したくも無い大変な目にあった。
それがどんな目かと云うと其処は察して欲しい。
とにかく散々だったのだ。
かと云って海月を完全に拒否する気にもなれない。
拒否したところで海月は気にも留めないだろうと推測できたが、
そうして自分の手を離れた男が何処へ行くのか心配でもあった。
つまり山吹は海月に対して何らかの価値を見出しており、
個人的な意味合いで海月を対象としその観察者であろうとしていた。
また親友として(こういった関係が既に親友と呼べるのかは甚だ妖しいが)
行く末を心配もしていた。
故に山吹にはどうしても海月のその衝動を断れなかった。

押し倒されて、ベッドがいいと云えば二人でベッドにあがった。
山吹の部屋は綺麗だ。汚れたところで直ぐに片付けられるが
汚さないに越したことは無かった。
性急に口付けをされて、この男でもそんな衝動に駆られるのかとぼんやり思う。
しかし何故その対象に自分が入るのか、それは未だ持って山吹にとって
謎であった。案外謎を解けば謎でも何でも無いのかもしれない。
恐らく回答はもっとシンプルなものだろうとも感じる。
だが山吹にはその謎に回答を求めることはどうしても出来なかった。
答えをつけていいものなのか、迷っていた。
迷った末、自分からは決して回答を求めまいと決めたのだ。
もし答えを聴いて仕舞ったらきっと戻れない気がしたからだ。
服を思ったよりも随分乱雑に脱がされて山吹の身体に舌を這わす海月は熱かった。
言葉で語らない癖に身体は多くを語っている気がする。
「・・・っ」
下肢に手が伸びゆるゆると自身を掻かれればどうしようも無く疼く。
ぶるりと慄えて海月を見れば情欲の灯った目線が絡んだ。
カッ、と身体が燃えるような衝動に駆られる。
指で適度に解されたそこは最初こそ抵抗はあったものの、
さして嫌悪感も無く受け入れられた。
「海月」
呼べども海月は聲を返さない。視線すら寄越さなかった。
仕方ない、と観念して山吹はもう一度海月を呼んだ。
「及介」
今度は顔を上げた。
セックスの時は何故か昔の呼び名で呼び合うのがルールらしい。
「ゴムは?」
「ある」
と海月は短く答えた。
山吹の家にはそんなものは無い。
常に海月が用意する手筈だった。
「うあ・・・っ」
一瞬の後に来た衝動に目がちかちかする。
海月はコンドームを装着した自身を何も山吹に告げることなく突き入れた。
「・・・はっ・・・」
揺さぶられじんじんと指先が麻痺するような感覚に陥る。
脚ががくがく揺れて攣りそうだ。
普段の海月からは想像もできないほど激しく揺さぶられ
中を掻き回される。山吹が短く息を切っている間に海月は
山吹自身を手で擦り昂りへと導いた。
「・・・っ」
びくびくと吐き出して息を吐いたところで海月も果てたのだと知る。
ずるり、と抜き出されたコンドームを手近なゴミ箱へ捨て海月は手際よく
汚れたところをティッシュで拭った。

「・・・なぁ、お前は何処へ行こうとしてるんだ?」
つい、尋ねた。
海月は五秒ほど沈黙した後に山吹の脚に再び割って入った。
この男が一度の到達で済ませる筈が無い。
仕方なく目を閉じて再び受け入れれば海月は微かに「先へ」と呟いた。

先、その先に何があるって云うんだ?
海月、お前はその先で何をするんだ?

問う前に海月と目があった。
深く深く息もできないような激しい口付けに
山吹はそのままこの男に持って行かれそうな錯覚に陥った。

さっちゃん・・・さつき、
求められる聲は自分をも連れて行くのかもしれない。
それをもしかしたら愛なんて言葉で云うのかもしれないと
山吹は少し哂った。

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