※世界崩壊前、直哉=24歳、直刀=17歳。


直哉と関係を持って既に二ヵ月が過ぎ、夏休みが終わって
学校が始まったので漸く直刀は直哉とのエロエロセックスまみれの
生活からは少し( まあほんの少しやけど )解放された。
もう学校の宿題すら出来ないほどだったから最悪である。
( 宿題事体は直哉が片付けてくれたからラッキーやってんけど
始まって直ぐの実力テストは散々やった。全部あのエロ兄貴の所為や )

そして渡されたのは音楽プレイヤーとヘッドホン、
どっちも発売されたばかりのもので入手が難しいものだった。
何気なく雑誌を見ていて直刀が欲しいと云ったのを直哉は
覚えていたらしい。
直刀にした散々のエロいことへの後ろめたさでもあるのか
あの直哉にしては珍しく殊勝な態度で直刀に簡単に包装された
包みを寄こした。
学期早々に学校に持って行って篤郎や柚子に羨ましがられたので
これで直刀は直哉の数々の非道に溜飲を下げたのだ。
だからこのところこの音楽プレイヤーとヘッドホンは直刀の
お気に入りであり、通学の際どころか家の中でも付けっ放しが多かった。
だが直刀、気付かなかったのだ。
あの兄が何の思惑もなしに直刀に物を渡すことなど有り得ないことに。

「君さ最近熱心に何見てるの?」
いつもの通り空間を切り取ったように不意に現れた男は
もう飽くほど顔を見た男である。
「噫、この間付けた」
振り向きもせずロキに答えるのは直哉である。
ロキは青山の仕事場の方にはわりとよく顔を出す。
揶揄い半分人間ごっこ半分だ。
昔からこういった悪魔なので直哉も気にせず好きにさせていた。
寧ろこのロキという悪魔のそういった行動は織り込み済みである。
画面は音声とこのあたりの地図を指している。
「地図?」
「GPSだ」
ははーん、とロキは其処で哂う。
「弟君に付けたんだ、どうやって?君のことだから絶対わからないように
付けたんだろうけど」
「教える義務はないな」
「その上何これ、まさか盗聴器まで仕掛けたの?」
うわ、君サイテーと笑いながら云うロキに直哉は満更でもなく
笑みを見せた。
この男、身体の関係を持って仕舞ってから開き直ったのか
徹底的に弟にべったり張り付く気である。
身体の関係を持つ前であったら有り得ない。
素っ気ない兄弟関係であった筈だ。
しかし独占欲の強い直哉は関係を持って仕舞った以上
直刀の全てを知っておかないと気がすまない。
どこか牧々としたのどかな雰囲気の直刀には一生この兄の変態っぷりは
気付けまい、とロキは思う。しかしそれはそれで
幸せなことである。
( 世の中知らない方がいいことってあるよね )
とほくそ笑んでいるとイヤホンをしていた直哉の肩が突然震えた。
この男が可笑しいという表現で笑うのは非常に珍しい。
四百年ぶりくらいじゃないか、という勢いで笑いだす直哉に
ロキはその内容に興味を持った。
「なに?弟君なんかあった?」
「いや・・・くっ・・・」
尚も爆笑する直哉にいよいよ事態が可笑しい方向に流れている。
思わず片方のイヤホンを奪い内容に耳を傾ける。

『ほんなら、今度は次のネター、こんにちわー霧原直刀ですー、
いやほんま最近は・・・』

ぶはっ、とロキが噴き出した。
ウケすぎて眼尻から涙が溢れてくる。
「ちょっと君の弟、漫才のネタ考えてるの!?」
じゃーと何かが流れる音がして更に笑いが止まらない。
「しかもトイレで・・・!」
そう直刀、一人でトイレに籠っている時にお笑いネタを
独り言で披露するのだ。
「ちょ、、、もうサイコーなんだけど直刀くん、、、!」
これ録音してる?
と問えば直哉が当然だ、と返した。
流石は変態である。
「他のも聴かせてよ」
「かまわんが、ただではな、」
オーケイ、流石は直哉である。
悪魔を遣うのは長けている。
「いいよ、多少の無理は聴いてあげるよ、・・・っ、ほんとこれサイコー!」
勿論直刀こんな遣り取りがされているとは露ほども気付かず
今日も呑気にリビングでお笑い番組を見ているのだ。

「このネタええなー、俺もこんなん思いつきたい」
と云うのでリビングでノートパソコンを広げて仕事をしていた
直哉が思わず口を滑らせて仕舞った。
「いや、お前のも中々だったぞ、この間の学校ネタとか、」
「え?直哉何で知ってるん?」
仕舞ったと思った時にはもう遅い。
まさか盗聴してますなんて言える筈もない。
つい気を良くして口が滑って仕舞った。
どうはぐらかそうか一瞬思考している間に、直刀は勝手に納得したらしい。
「まあええわ、俺ほんなら今日はもう寝るー」
「ああ、おやすみ」
と弟を見送り、そして常に耳に挟んでいるイヤホンから
弟の足音を辿る。
ド変態兄は絶賛弟を同じ屋根の下ストーカー中であった。
そのまま部屋に戻るかと思いきや
直刀はトイレに寄ったらしい。
そして其処でまた独り言。
「あれ?やっぱり俺直哉にゆったっけ?・・・それともそんなに独り言大きいんやろか・・・」
どうやら独り言がトイレから漏れたと誤解してくれたらしい。
それに安堵していたら直刀また爆弾を落とした。

「今度からは小声にしよ」

言葉通り小声になって披露される漫才ネタは
暫く爆笑ネタとして直哉とロキに提供された。
「ちょっともう君の弟ほんと面白いんだけど・・・!」
「今日のネタは素晴らしいかったな、流石は直刀、見事なボケっぷりだ」
ド変態な盗聴魔の兄に聴かれているとは知らず直刀は
今日もお笑いネタをトイレで披露した。


ウチの兄ちゃん
変態やねん。
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