お前はどれほど俺を試せば気が済むのか

ああ、まただ、と羅刹は思った。
直哉は時々こうして子供染みた嫉妬に狂う。
ただ何気ないこと、他の誰かとの何気ないやり取り、
いつも他人には興味を示さない直哉だ。
だから普段は実のところ俺が何処で何をしていようと
大して気にもしない癖に、時々こうしてストイックに、
俺が居ない、別の誰かと居る、ただそれだけのことで、
なのにそれにどうしようもない不安を覚え癇癪を起こすのだ。

「直哉、」
ゆっくり直哉に語りかける。
散々俺を詰って、部屋中を荒らしたのだから
もう十分だろう。
「直哉、」
抱き締めれば直哉は黙って羅刹の腕に収まった。

多分こいつはどうしようもない。
直哉は恐らく途方も無い年月の記憶を継承してきて
初めてなのだ。
こんな感情に振り回されるのも、誰かを気に懸けるのも、
そして誰かを好きになったのも、
だからどうしようもない。
皆、それを子供の時から大きくなるにつれ知っていく、
そうして大人になる。
でも直哉は違う、死んでもまた生まれる、
生まれることを繰り返す内に他人を思い通りに動かす術を
先に憶えて仕舞った。
だから知らない。
こんなにも純粋で、あたたかな光を直哉は知らない。
俺は莫迦で、頭悪いから、力で解決することしか知らないから
上手く直哉に教えてやれない。
でも身体で教えることはできる。
こうして直哉を抱きしめて抱きしめて
ただ傍にいる。
それだけのことがどれほど救われるのか、
お前は知らないんだ。
だから俺が教える。
お前が俺の愛を常に試すように、
俺はいつだってそれに応え続ける。

「俺はお前が好きだよ」
「お前だけだ、俺が、この羅刹がだぜ?選んだのは直哉だけだ」
「お前の隣がいい、お前の隣でずっと生きていく」
「だから」

大丈夫だと額に口付ける。
兄は、目を見開いて、それから黙って俺を抱き締めた。

「どんなになってもどれほどの時間を超えても、
俺はお前を愛してる」

そうして男は云う、

「その言葉だけで俺は何処までも歩いていける」

何処までも、とそいつは云う。
その隣にいつまでも居ることを確信しながら
俺は兄を抱き締めた。


それが好きだ
ということ
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