※魔王ルートED後。


贈り物と云えば彼だ。
事あるごとにこうして貢物を捧げるのがすっかり習慣になってしまった。
無論彼は魔王であるからして傘下の各国の悪魔達が列挙して
彼に何かしら貢物を捧げているのだが、それらの財宝の殆どは彼の眼に
留まることはなく、万魔殿と成ったこの六本木ヒルズの倉庫として
宛がわれたフロアに一通りのチェックを終えた後に放り込まれる。

( それに比べればマシと云えばそうなんだけど・・・ )

目の前には破かれた包装紙、そして散らばった箱、
それらは点々と奥へ続いている。
此処は魔王の居室の階であり側近だけが入れるフロアの応接室だ。
結界が張られているがそれ以外にも人間の世界のセキュリティキーを
通さないと入れない仕組みになっている。
そんな厳重なフロアに敷き詰められた豪奢な絨毯の上に
ゴミと云っても差支えないブランドのロゴの入った残骸が無残に散っていた。
クーフーリンあたりが目撃したら大慌てで片付けそうな光景である。
ひとつひとつ一応拾いあげながら奥へ進むと廊下にも散らかされた
箱や包装紙が散らばっている、空いている扉を確認して
中を覗けば矢張り彼だった。
「一応、それ今年の最新作なんだけどね」
「ふうん」と気のない返事をしたのは羅刹だ。眼の前の
Tシャツを広げては床に投げている。
「これ全部お前が?」
「羅刹君に似合うと思ってね」
そう自分は彼に贈り物を見てもらえるだけの特権はある。
その程度には尽くしているつもりだし、そのくらいの実力は
持ち合わせているつもりだ。魔王である己がベルの王と成った彼に
傅いているのはそれなりに面白いのとうっかりすると嵌ってしまいそうな
魅力を羅刹に感じているからだ。遊びのつもりは嵌って仕舞っては
洒落にならない。それもわかっているがこのところ、それで身を滅ぼしてみるのも
面白いかもしれないと思って仕舞っているあたり既に末期なのかもしれなかった。
( 人間の名前を付けられても返事するあたりもね )
『間口』と羅刹はロキを呼ぶ。
彼の家は人間の世界でもそれなりに古い格式ある家系だ。
その後継者である彼は文字通り暴君であり、覇者である。
そう在るように育てられた子供だ。
『間口』とは、その人間の家で彼に仕えて賄いや身の回りの世話を
彼等兄弟にしていた男の名だ。
だからその役目を興味半分面白半分で引き継いだロキを今度は「間口」と
羅刹は呼んだ。ロキの名を知っているのかすら怪しいが仮にも大いなる闇さえ
従えた魔王である、ロキの名は知らずともどういった存在かくらいは感覚でわかるだろう。
それさえもわかって「間口」と挑戦的に呼ぶ彼を嫌いではない。
( 寧ろそうでなくては )
面白くない。
だからこそ自分は彼に、元はただの人間にしか過ぎない、たった17年しか生きていない
脆弱な存在にしか過ぎぬ、しかし容姿だけは酷く美しい彼に跪くのだ。
「新作、好きでショ?」
そう彼に与えているのはすべて人間の世界のものだ。
今は既に世界は縮小して、(正に国家の統廃合と縮小と云える)
人間の生活圏は悪魔の世界と距離を置きつつある。
残る人間はごく僅かだ。
最早其処に国家や宗教の垣根は無いに等しい、或る意味人は天使や悪魔という脅威の前に
初めて平等に成ったのかもしれない。
存在を視認して初めて世界の理を理解したのだ。
「これはシャネル、エルメスのはもう開けた?」
沢山積まれた箱はそれでも未だ文明活動をかろうじて維持できている
場所から調達してきたものだ。
悪魔と人間の物差しは違う、羅刹は確かに魔王だが物差しは人間の尺度だ。
だからこそ彼が好むのはこうした人間のものだった。
其処がわからないから悪魔達は自分達の自慢のものを羅刹に差し出すのだ。
まあ、ドワーフ達に携帯ゲーム機の新作ソフト、と云ってもまるでわからないのが関の山であろうが。
「イマイチだな、今年のはあんま好きじゃねぇ」
ぽい、と捨ててしまう彼にロキは笑うしかない。
入手するのも楽ではないのだが、それを云ったところで「それで?」と羅刹は
視線すら寄越さないだろう。
無駄である。
それにこれはロキが一方的に捧げているだけのものだ。
羅刹が欲しがったものではない。
だからこそ、ロキは肩を竦め、一つ一つ丁寧に拾いあげる。
「クローゼットに仕舞っておくよ、残りのはまだ部屋に?」
「あー、まだ開けてねぇ」
部屋ひとつ埋まるほどのものを買って寄越したので
まだ開けていないのだという。
俺は寝る、と云って煙草を燻らす彼の背を
見送りながらロキは口から笑みを漏らした。

「まあキョーミ無しってとこがまたたまんないんだよね」

見事に男心をくすぐってみせる彼の態度はひょっとして態とではないだろうか?
でなければ魔性だ。
時折気に入って持っていてくれるものもある。
そういった気紛れは正に魔王らしかった。
だからこそ、止められない。

「次は何贈ろっかな」

そうしてまた自分は新たな贈り物の為にカタログを開くのだった。


貢ぎもの
menu /