※魔王ルートED後。


その日はたまたまというか
ついでというか軍の動向という表向きの来訪理由を
手にほぼ冷やかしでロキは魔王城と成ったヒルズを訪れた。
適当な理由をつけてこうして城に来訪するのは
目下最大の興味の対象である魔王に逢う為である。
なんだかんだで生活能力の無い彼等を何故
自分が面倒をみるのか、自問自答をしつつ、
結局何かにつけて料理などを振舞ってやっている。
我らが魔王様こと唯一至高の存在である「羅刹様」は好みが
激しいので気が向けば手をつけるが気が向かなければ
どんなに手のこんだものでも口にしなかった。
そうなると意地でも喰わせてやろうというのが心情である。
だから最近ではどんどん人間の料理に嵌っていて、
料理の腕が上がって仕舞った。
この件については魔王の兄も賛成のようで、
羅刹は細すぎるだのなんだの云って二人して
何かと食べさせようとするが一向に羅刹の主食は
煙草と水であった。

直哉の元へ軍の動向を伝える前にふらりと羅刹の姿を
見つけたので寄ってみる。
ここ一週間ほどは羅刹は大きなTVのある一室で
DVDを観るのが流行りらしかった。
ホームシアターと云えば贅沢なものだが、
今現在の人間世界の情報を得てはあれが欲しいだのこれが欲しいだの
云って自分やまた他の誰かしらに調達させている。
彼が魔王であるから成し得る命令とも云えるが、
結局この少年は生まれついて人を使うことに慣れている。
北条の家そのものがこの国の古来の神もその名を知っていた
程度には随分古い血筋であるらしいし、それ故、
直哉と共に跡取りとして育てられれば常に誰かが
彼に従事していたわけで、故に命令を
圧力もなにも無く自然に云ってのけるので
彼の魔王としては随分可愛いらしい我儘は
全て叶っているだろう。
そんな彼こと北条羅刹は今は誰か音楽歌手の
PVにご執心のようだった。
ラフな服装で雑誌を捲りながらPVを流して寛ぐ様は
完全に魔王としての威厳も何も無い。職務放棄もいいところだが
魔王の兄でさえ容認しているので彼に意見できるわけも無く、
( まあ、この子はこういう奔放なところがいいんだよね )
と魔王兄とその点は同じ意見の合致を見て、
そして手にしたポカリスウェットを彼に投げた。
「おーサンキュ、煙草は?」
「ご所望のをあるだけ取ってきたよ、ダンボールに入れて
外に置いてある」
「ん、わかった」
巨大なTVからは挑発的な衣装を来た歌手が音楽に合わせて
ダンサー達と踊っている。
羅刹はそこから視線を外さずに、手にしたポカリのペットボトルの
蓋を開けた。

「こういうのが好きなの?」
「んー、まあ嫌いじゃない」
踊ってるのわりと楽しそうだし、と彼が云うので、
「君も確か古いのを出来るんじゃなかったっけ?」と
能について訊いてみた。
「あれはちょっと違うけど、まあ、ガキの頃からやってたし」
「こういうのは出来ないの?」
試しに訊いてみれば彼は「よし、」と軽やかに立ち上がり、
「多分出来る」と云って踊り出した。
「まさか全部覚えてるの?」
「こんなの一度見れば覚える」
頭の出来はともかく流石は芸能の家系と云ったところか、
羅刹は寸分の狂いも無く、画面のダンサーと同じ振りをして見せた。
短めのTシャツにカーゴパンツというラフな装いだ。
羅刹が動く度にその細い腰と腹がちらちら目に付く。
( これはなかなか・・・ )
予想以上に彼の動きが綺麗で、腰つきのいやらしさに
眩暈がする。
思わず今夜どう?と誘ってしまいそうな
健康的な色気だった。退廃や排他的という言葉が
およそ似合わない彼の色気はどちらかというと
同性同士のセックスすら健全に思えてくるから不思議である。
人間相手に(最も彼は現在魔王であるが)
こんな欲情を覚えるのも稀でごくりと喉を鳴らした。
大胆なダンサーの踊りに合わせて羅刹の腰が揺れる、
髪が綺麗に流れて、
視線を合わせれば挑発的な眼線で哂われた。

そんな羅刹に煽られて手を触れようとしたところで、
タイミングよく部屋のドアが開く。
直哉だ。
羅刹の姿を確認してから「なんだお前も居たのか」的な
視線を寄越されて、この兄弟のこういった傲慢さは
何処から来るのかと怒りを通りこして呆れさえ浮かぶ。
けれども口を開こうとした瞬間、羅刹の動きに
視線が釘付けになった。
直哉が来たところで羅刹が自分のしたいことを止めるなんて
まずあり得ない。
羅刹は踊りきる気らしく、
結局自分と同じく直哉もそれが終るまでは待つことにしたらしい。
ロキの隣に立って黙って煙草に火を点けた。

「官能的だよね、彼」
直哉も羅刹から視線を逸らさない。
厳密に云えば、その眼から眼が離せない。
いやらしい腰つきも、誘うような動きも、
その挑発的な視線には敵わない。
彼の目ほど魅力的な目を自分は知らない。
「ナオヤ君?」
黙ったままの直哉は踊る羅刹の手を取り、
何するんだ、と叫ぶ魔王様を床に組み敷いて
身体を弄り始めた。
自分はと云えば「あらら」と笑い乍ら、
この兄弟の行為を傍観することにする。
「ちょっとお前も止めろよ!」
叫ぶ羅刹にあはは、と笑いながら、
自分も羅刹の手を取った。

「じゃあ、僕も混ぜて貰おうかな」

最後までは屹度この魔王の兄が
赦さないだろうけれど、おこぼれくらいはある筈だ。
舌舐めずりしながらロキは羅刹の指を口に含んだ。
ゆっくりとその甘い肌を舐めながら、
目を閉じる、そして悪魔らしく、快楽の微笑を浮かべながら


彼の視線、
その意図について
考えた
menu /