後日談:


篤郎はその有様にうんざりした。
いい加減にして欲しい。
なんだこの甘さは、砂糖が吐けそうだ。
幸いにも片割れは現在仕事中なので砂糖どころか
ゲロする心配はなさそうだった。

「で、そのままうっかり廊下から庭にはみ出しながら
青姦しちゃったと?」
「いやー盛り上がっちゃってさー」
にへら、と笑うのは先日まで死にそうだった親友であり
魔王様である。
思わず頭を抱えた篤郎を赦して欲しい。
決してこれは篤郎の所為ではない(と思いたい)
「城どころか城下の悪魔にまで噂になってんだけど」
魔王と魔王兄の屋外(濃厚)情事の噂は千里を駆けた。
下手をしたら前線にまで広まっているかもしれない。
そのとんでもない醜聞のおかげで魔王は色情狂という
非常に不名誉な噂まで流れる始末だ。
「頼むからやめてくれ、恥ずかしい・・・」
こんなことなら仲直りさせるべきじゃなかったのかもしれない、
仲睦まじくと云えば聞こえはいいが、
なんのかんの云って結局朝から晩までヤってるだけだ。
お前ら猿だよ、と云いたい。(最早猿に失礼かもしれない)
何今更そんなお盛んなんだよ、もう散々やってるだろうが、
それ以前にホモだ、とツッコミたいが、ホモを後押しした
立場としてはなんとも云い難い。
それに今それを云えば確実に直哉に殺される。
屹度さりげなく最前線に送られて、さりげなく、スキル減らされてて、
さりげなく仲魔が少なかったりして、さりげなく囮に使われて
篤郎は奮戦するも敢え無く前線で戦死して、篤郎の弔い合戦だ、
なんだと盛り上げて政治的にも利用する気だ。そんな死に方は嫌だ。
死ぬなら可愛いお嫁さんをGETして健全に子造りに励んで、
娘が生まれちゃったりしちゃってそんでもって可愛い孫の顔を見てから死にたい。
だからそんな死に方だけは絶対に遠慮したい。
だって俺まだ○○・・・(そこはなんだ、つまりそのこっそり察して欲しい)
「まーなんつーか、火が点いたってゆーか、今までまともなセックスしたこと
なかったし」
お前達はどんなプレイをしてきたんだ緊縛、スカトロ、SMとは云えない
と叫びたいのを篤郎は我慢して、
とりあえず幸せそうな魔王様にお茶を淹れた。

「ま、上手くいってよかったじゃん」
ところが魔王様、お茶を一口啜りながら、溜息ひとつ。
「そーでもないけどな」
は?と云う前にバン、と扉が開けられる。
魔王の兄だ、寧ろ天使にも悪魔にも恐れられる冷酷無比な参謀とでも云った方が
いいだろうか、とにもかくにも全世界で最も敵に回したくない男ナンバー1の北条直哉である。
「羅刹!おまえ!さっきのアレはどういう・・・!!!」
羅刹はそんな直哉に目も向けないで前髪を弄っている。
「別にぃ?直哉にはカンケーねぇだろ?」
「貴様、まだそんな口をきくか!?」
「したらナンだよ」
直哉が肩を怒りに慄わせる。
これはやばいな、と思って篤郎は咄嗟に机に下に退避した。
「躾直してやる、来い!」
有無を云わせぬ物言いで羅刹が引っ張られていく。
喧嘩だ。いつもの喧嘩だ。
険悪なムードなのに、でもうっかり篤郎は見て仕舞った。
何で自分はこういったことに気付いて仕舞うんだろう。
自分の迂闊さを呪って仕舞う。
だって机の下だから見えて仕舞った。



互いのその手がしっかりと
繋がれていることに。



痴話喧嘩は犬も食わない。

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