直哉と再会して一ヶ月後、雪風は姿を消した。
まわりの整理はきちんとした。
篤郎や柚子達には旅に出るとだけ伝えた。
そして今、雪風は直哉と同じように姿を変え、
遠くの地に居た。

「此処の悪魔は厄介だね」
悪魔を使って政府や各国機関から姿を晦ましている以上、
自然と仕事はそっち関係になった。
「正しい手順も使わずに日本語で話しかけるからだ」
「えー、バ・ベルって共通言語でしょ?ベルの王ならいけると
思ったんだけどな、」
「お前が王だと知って悪魔が消えて仕舞っただろうが」
王の力を行使しなくても雪風は魔界の半分程度は支配できるほどの
ベルの王である。その存在だけで悪魔は委縮した。
仕事は遣り易いが時に雪風の存在の強さに失敗もする。
「全く、後は俺がやる、お前は食糧でも調達してこい」
はあい、と返事してから部屋を後にする。
どうせこの「悪魔の家」と呼ばれるところに泊まりだ。
別段危険も感じない。人にとって危険な場所がもはや雪風には
危険ではなくなって仕舞った。王の力を行使することは無いが
王であるということの権力は悪魔に取って絶対であるようだった。

適当に食糧を調達する。
慣れない土地だったけれど直哉と旅をするのは面白かった。
直哉は大抵の場所は知っているようだった。外国語も
堪能だ。「ここまで生まれ直すと知らない言語の方が少ない」
と云うだけあってどの土地の言葉も、そして地理にも詳しかった。
そんな直哉に少しづつ買い物の仕方や、生活を教わって、
それから直哉の色んな面を見てきた。
少し面倒なことを考える時は眉間に皺が寄る癖、
そして珈琲は深入り豆の方が好きだということ、
案外無精で、片付けは苦手なこと、
寝る時に本を読む癖があること、
色んな直哉を見た。
そのどれもが新鮮で、幸せで泣きそうになる。

「直哉、ただいま」
帰ると直哉も仕事を終えたらしい、
抱擁して口付ける。
互いの存在を確認するようにいつも口付ける。
いつも、いつだって直哉の愛は深い。
その直哉の愛に少しでも追いつけるように、直哉を孤独にしないように
自分は此処に居る。
あれから手を繋ぎ、沢山の話をした。
それは過去のことだったり未来の話だったりした。
直哉の途方もない年月の話も沢山聴いた。
辛いことを避けて話す直哉の優しさにいつも泣きそうになった。
そして今此処に居る。
直哉に口付けて、口付けて徐々に深くする。
愛しているよと身体で云う。
直哉は最初こそ驚いたものの今は黙って雪風の好きにさせていた。
「したいか」
「云、」
「ベッドは汚いぞ、使えるかどうか」
直哉の言葉に笑い、そして雪風はその背に飛びついた。
昔は躊躇ったその背に今は躊躇い無く、
「いいよ、直哉がいるなら何処だって楽園だ」

これは愛の儀式だ。
悪魔を呼び出すのに儀式を使うみたいに。
まるで愛を確認するかのような儀式だ。
どこか尊さすら感じるその仕草にくらくらする。
直哉に口付ける、
直哉と舌を絡めあう、
そうされると全部を直哉に持って行かれそうになる。
駄目だ、直哉に全部持っていかれたら最後
この優しい男は徹底的に雪風を溶かしていく、
それだけは駄目、
明日に響くし、遊び半分でしょっちゅう遊びに来る
ロキに揶揄われる。
だから駄目。
「な、直哉、駄目」
直哉はちらりと赤い眼を向けて嫌だ、と意思表示した。
そのささやかな意思表示がたまらなく可愛いと思っているあたり自分もどうか
している。二十八にもなった男が可愛いなんてもう相当頭がイカれているのだ。
「駄目だって、」
「何故」
真っ直ぐに見られるとそれだけで赦してしまいそうになる。
でも駄目、
「俺が乗る」
「お前が?」
そう、と頷けば直哉も興味があったのか折れた。
調達したワセリンを手に取って、直哉の手を借りて解した中へ塗りこむ、
そして痛みを堪えながらゆっくりと直哉のものを挿れた。
最初は死ぬかと思ったけれど慣れればそうでも無い。
直哉も定期的にしないと駄目だとわかっているのか
わりと寝る前の一瞬にすることも多かった。
ずぷずぷと身体に沈むそれは直哉の欲だ。
欲は醜いと云うけれどそうは思わない。
これほど深い愛に満ちた交合を自分は知らない。
今までのどの女の子とよりも崇高に思えた。
多分これが愛なのだ。
これこそが愛だと思えた。
「・・・いっ、」
「痛いか?」
気遣う直哉が好きだ。
直哉はいつだって優しい。
「だいじょうぶ、」と聲を漏らせば直哉がぽんぽんと雪風の背を撫ぜた。
このまま止めてもいい、けれども到達できないともっと辛いということも
わかっている。
だから直哉はゆっくり雪風を揺らした。
雪風がそれに慣れるまで我慢強く待った。
「好きだ、直哉」
「好き」
合間に口付ける。
言葉にするのもそんな時間も勿体無いくらい激しい口付け、
身体の動きも激しくなってきて、一際口付けが深くなった時に
身体の奥に熱さを感じた。
「俺の方が愛しているさ」

果たしてどちらの愛が強いだろう?
繋ぎ合った指先から伝わる鼓動はどくどくと速い、
それがどちらの鼓動なのかもうわからない。
繋がったまま角度を変えて続きを強請る直哉に
雪風は微笑んだ。
確かに年数の長さでは今は直哉の方が上だ。
けれどもいつかその長さでさえ抜いてやるほど
一緒にいてやると、挑戦的に彼は微笑んだ。



果たして
どちらの愛が
強いのか




二人の夜は長い、そして結局翌朝、ロキに揶揄されるのはまた別のお話。


退魔師ネタは外せないとゆわれたので・・・

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