※世界崩壊前 直哉=24歳 主人公=北条 八十(やそ)17歳。


直哉という従兄は八十(やそ)にとって世界の全てであった。
優しくて、少し神経質、綺麗好きで世話好きの従兄(あに)が
幼いころから大好きだった。
北条の広い家の中で家族は父と母と自分だけだった世界に
直哉という兄が出来た。
出会ったその日から何もかもが決まっていたかのように
直哉は八十の全てになったのだ。
キスも、身体を繋ぐことすら殆ど何の疑問すら抱かずに
自然に受け入れて仕舞った。
それがおかしいことだと
薄々解ってきたのはその歪みからもう出られなくなって
仕舞った今頃になってからだった。

「直哉・・・」
「いやか?」
首を振る。
直哉に嫌だと何かを嫌だと云ったことはない。
八十の好まないことは直哉はしない。
いつもいつも優しく絡め取るように気付けば
それしか選択肢がないように八十を閉じ込めるのが
上手な兄だった。
時々、誰かにそれはおかしいのだと云われている気がする。
けれどもそれは八十には届かない。
直哉という膜で覆われている自分には屹度届かない。
ぼんやりと漠然とそれがおかしなことだと
理解はしたつもりだった。
けれども八十はそれを直哉には云えなかった。
従兄を愛しているかと問われればわからないと答えるだろう、
好きかと問われれば好きだと答える。
これを愛というのならば愛には違いないのだとも思う。
間違っていると、確信のないまま従兄に云っても
受け入れられまい。従兄はその綺麗な顔を歪ませて
優しく問うだろう。
「お前にそんなことを吹き込んだのは誰だ」と、
だから決してそれを問うことは出来なかった。
直哉との関係を当たり前に受け入れるままに
成って仕舞った己が間違っていると思いながらも
否定もできない。
そんな曖昧なまま、直哉の腕から逃れることも考えなかった。

いつも優しい直哉。
己にだけ酷く優しい従兄は
セックスの時はもっと優しくなった。
それが心地良くて、
心地良すぎて、直哉の腕の中で息苦しささえ
感じながら溺れていくのだ。
揺らされながら時折想う。
従兄の縋るような眼、
あの綺麗な赤い眼が、どこか遠くを見ているようで
それが切なくて、まるで自分が直哉を犯しているように
すら思えるほど悲しくて眼を閉じる。
「どうした?」
「ううん、何でも、ないんだ」
「嫌か?」
「嫌じゃないよ」
「お前をあいしてる」
抱きしめられてキスをする。
揺らされながら、溺れる感覚だけはいつも消えない。
そして僕は目を閉じる。


( 僕は・・・ )

( 誰の代わりなんだろう )



それすら
聴けやしない。
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