※魔王ルートED後。主人公=北条 八十(ほうじょう やそ)


何もかもが久しぶりだった。
魔王の宣言をしてから多くの悪魔がこの東京へと終結し、
それらを纏める作業に併走していつの間にか用意されていた
部屋は一番広い部屋だった。(魔王の居室として恥じないように
と側近の悪魔や直哉が云ったが八十(やそ)には正直あまり
ぴん、と来ないことだ。実家の自室よりは広かったが
実家の大きさほどこの六本木ヒルズが大きいわけでもない)
そのベッドで漸く落ち着いて眠れたのが昨日。
泥のように眠って、起きたらいつの間にか隣に直哉が
寝ていた。
直哉は少しの睡眠でも十分に働ける人間だったが
八十は違う、最低でも9時間は眠らないと駄目だった。
(八十はロングスリーパーだからな、と直哉は云った)
その分直哉はああ見えて酷く頭を使う労働ばかりするのか
どういうわけか凄く沢山ものを食べるし糖分も多く摂取する。
反対に八十(やそ)はあまり食べない方だった。
寝る前にシャワーでも浴びたのか直哉の髪からはいい香がする。
それがまるでいつもと変わらない、幼いころから変わらない日常みたいで
おかしくなって仕舞って、直哉の髪に鼻先を近づけたら
抱き込まれた。

「起きてたの?」
「お前が寝返りを打った時に起きた」
ぎゅう、と抱き込まれればこの従兄、いや、もう兄なのかもしれない、
兄は満足そうに笑みを浮かべた。
冷たい笑みはいつものことだけれど、八十の前ではただの人である。
優しい笑みだった。
それが酷くくすぐったくて、心地良くてつい甘えてしまう。
「直哉、したい」
「珍しい、お前にもそんな衝動が人並みにあったか」
「色々あって疲れた、でも直哉の匂いを嗅いだら欲しくなった」
そうか、と直哉は頷き八十の上に乗る。
じゃれあっているようでそれさえもなんだか酷く幸福な心地がした。
口付ければあとはもうなし崩しで、思ったよりも全然激しい口付けは
余計に八十を煽って、いつになく夢中になった。
夢中に欲しい欲しいと強請れば直哉も興に乗ったようで
いつもよりも激しい。
絡めた唾液が喉元を伝っても気にならなかった。
直哉の長い指が、熱い舌が自分に触れていると思うだけで熱くなる。
こんな激しい情欲が己の中にあるなどと思いもしなかった。
「直哉・・・兄さん、」
兄さん、と抱き締めれば直哉は一層強く八十を求めた。
酷くそれが懐かしくもあり、愛しくもあり、そして切なくもある。
どうしようも無い過去に、過ぎ去って仕舞った遠い記憶に、
それが何であるかの確証も無いまま、八十はただ「兄さん」と直哉を
欲した。

八十の身体を、皮膚を直哉の舌と指が撫ぞっていく、それに酷く興奮を覚えて
既に固くなり始めた自身に触れて欲しい。
しかし望んだ感覚は得られずもどかしくなった。
「はっ・・・も、、、」
はやくしてほしい、縋るように直哉の赤い目を見つめれば直哉は
ぞくりとするほど色気のある笑みを浮かべた。
あっと、思った時には既に直哉の舌が己自身に絡んでいる。
口内の熱さと舌のぬるぬるした感覚がどうしようもなく八十を追い詰めた。
「あああ、っ、、っぅ・・・」
じゅるじゅると吸われればもう駄目だ。
意図せずして吐き出して、びくびくと身体を痙攣させながら
駄目になると、呟けば直哉が満足そうに八十の出したものを
飲みこみ「駄目になればいい、」と云う。
指を絡めて欲しくて手を伸ばせば
直哉の指が八十に絡む。
厭らしい絡み方だ。
酷くこれが八十にとって自然の行為であるというのに
(何せ5年も前からずっと直哉としている行為だった)
それが今になって酷くいやらしくて背徳的なことの気がして
八十はどうしようもなく慄えた。
直哉はそんな八十の様子を悟ったように、笑い、
「大丈夫、問題無い」
と何度も云う。
それを云われると八十は落ち着く、兄の落ち着いた声で
大丈夫と云われるとこれでいいんだと思えた。
「お前が羞恥で悶える様も見目はいいがな」
と笑われて其処で八十はからかわれたのだと
下にあった枕を兄へと投げた。
直哉はそれを軽く交わして、八十の足を持ち上げる。
暫くご無沙汰だった所為で随分と硬い。
解さないと受け入れられそうになかった。
「少し我慢しろ」
八十が痛いことは直哉はしない。
根気強く解すのだろう。
だからこの場合の我慢は痛みでは無く解すほうにある。

「はっ・・・ア、、アア、、、」
ぶるぶると身体が慄える。
解す為とはいえ直哉の嬲り方は半端無い。
じっくりと八十の身体を開く様は嬲るで正しい。
本来受け入れるべきでないところを開くにあたって
指を舌で其処へ身悶えするような快楽を与えられてもう何度触れられずして
達したかわからない。
今もそこをねっとりと舌で突かれ舐められて、指で触られて
がくがくと脚が慄えた。
「あ、ああ、赦し・・・」
もう赦して欲しい、でも直哉はまだだ、と云って嬲るのをやめなかった。
あまりの快楽に背筋を逸らせれば直哉が深く指を突き入れて
いっそう身体がしなる。
「あ、っアッ、、、」
ぐちゅぐちゅと己の吐き出したもので中を掻き回され、もう気が狂いそうだ。
感じすぎてぐったりした頃に「そろそろいいか、」と直哉が己のものを
取りだし、二、三回手で擦っただけで完全に固くなった直哉自身を
漸く挿れてきた。
「く、、、あ、、、!!」
散々慣らしたとはいえ矢張り久しぶりのことできつい。
直哉は「く、」と擦れた聲で呻いて、その聲にやっぱりどうしようも無く
煽られて、抱えられた足を限界まで折り曲げられて、
少し動かずに止まってから、(やっぱり直哉は其処で「大丈夫だ」と云った。
それにどうしようもなく安堵する)
ゆっくりと動き出した。

「ふ、、ぅ、ア、、アアッ、、、」
あとはもう何がなんだかわからない。
こんなに行為に没頭したのは初めてかもしれない。
直哉に前後不覚になるほど求められたことは引っ越し先の青山の家で
何度かあったけれど八十が没頭するのは初めてだった。
酷い興奮で、どこもかしこも直哉に触れられて、
( きっと触れられていないところなんてない )
それが酷く切なくて、嬉しくて、そして何処かかなしくて、
どうしようも無く感じて、
直哉も溺れているのがわかる。
いつになく焦った様子で、満足そうに、笑みを浮かべながら、
( でも屹度、 )
八十は思う。そんな兄との行為に、想う。
( 余裕なんてないんだ )
「ア、、アアッ!!!」
直哉のものが体内に吐き出される熱さに引張られるように
一拍遅れて八十も達した。
どこもかしこもぐちゅぐちゅで、
シーツも服もべたべたで、
それでもまだ足りないと互いに口付けた。
青い眼と赤い眼が重なって、
そして
いつかわからなかったこれが恋や愛なのかもしれないと
八十は想った。

触れる、
求める、
何処までも貶めて欲しい、
何処までも相手の全てがただ欲しい。

( 噫、これは )
( うみだ )


互いにどうしようもない海に溺れている気がした。


静かの海
menu /