※魔王ルートED後。


ヒルズの住居部分の好きな場所を各々の部屋として
使うことになった。
会議やなんかは適当に会議室を使えばよかったし、
食糧の備蓄なんかを沢山蓄えて籠城していたひともちらほらいた。
そんな人達は魔王軍御一行を見るやいなや、慌てて山手線の
外へと逃げ出してヒルズは完全に魔王の居城になった。

( いまじゃ魔王様だもんなぁ )
信じられるか?クラスメイトが魔王なんだぜ?
篤郎はぼんやりそんな話を誰かにしたい、と思ったが
此処でそんな話をしても鼻で笑われる面子ばかりだから
黙っておく。
「あれ、ルナは?」
ルナと謀らずして自分がアダ名を付けた彼こそが
魔王であり、本名は北条 八十(やそ)と云う。
そしてそのアダ名がそのまま魔王の名前になった。
悪魔達の間では八十を『月の王』と通称しているらしい。
「あら、さっき直哉君とご飯食べに行くって云ってたわよ」
「え?そうなんですか?」
柔らかな口調で話してくれるのはマリ先生だ。
元保健の先生で篤郎の家庭教師を学生の時に
やってもらっていたこともあってどこか安心できる女性だった。
最近ではジャア君とまた保健の先生みたいなことを
しているらしい。(相手は人間であったり悪魔であったり様々だった。)
「直哉さん、ルナにだけ甘いからなぁ・・・」
はぁ、と溜息を吐く。
直哉は弟である八十の面倒しかみないひとだ。
あとは自分たちで勝手に調達しろ、と云われて、
(まあ直哉さんの云うことは最もである。自分たちの母親では無いのだから
面倒みきれないというのは間違ってない)
こうしてご飯は各自調達が原則だ。
「マリ先生達はお昼どうするんスか?」
隣でなにやらご機嫌な様子のジャア君は何処で調達したのかアイスを食べていた。
元が元なだけに冷えているものの方がいいのかもしれない。
「そうねぇ」
マリ先生が少し考えるようにしてから、携帯を取り出した。
(携帯の電波や電気は直哉さんがどういう魔法を使ったのか
元の状態に戻したので少し前から快適な生活に戻っている)
「あ、征志くん?そう、お昼なんだけど・・・」
少し話してから、わかった、と頷いて、携帯をパチン、と
折りたたんだ。この仕草がいかにも女性らしくて
つい見惚れてしまう。
「征志君が何か見繕ってくれるって、」
カイドーはああ見えて、結構料理ができる。
中華は得意らしく炒飯なんかはもう絶品だった。
その点篤郎自身はコンビニご飯で育った子供なので
壊滅的である。
とりあえず昼食が確保できたことにほっとして、
それからまた夕飯の心配をしなければならない。
こうなったら少し遠出だけれど、都市機能が回復している
山手線の外のコンビニへ(やっぱりコンビニだ)行こうかな、と
考えていたら、マリ先生が聲をあげた。
「じゃあ、夕飯は皆で焼肉にしましょうよ」
ぱん、と両手を合わせて名案だ、と云うマリ先生に思わず笑って仕舞う。
「ルナ君達も誘って、どうかしら?」
「ルナ、焼肉食べるかなぁ」
「食べるわよぉ、成長期なんだから」

いそいそと遠慮無く、ルナと直哉さんの部屋へ足を向ける
マリ先生に感服する。篤郎にはあの二人の間に割って入れる勇気は
どうしたって持てそうにない。
「食べるってー!」
用意は直哉君がしてくれるみたいよー、と上々の結果をもたらした
女性の強さに改めて篤郎は感服した。
勿論夕飯の焼肉パーティーは側近の悪魔達も参加しておおいに
盛りあがった。
そんな中、八十はいつもと変わらず、
(まるで変わっていないのが不思議なくらいだ)
楽しそうに微笑んだ。

( これ、知ってる )
( なんか皆で )
( ・・・家族みたいだ )


家族ごっこ
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