※直哉23歳、主人公=北条 八十(やそ)16歳。 大学院にあがって少し落ち着いたので北条の家に 相談して直哉はアパートを一室用意して貰った。 それから越して直ぐに遊びに来た従弟を抱いた。 直哉にとってはもう4年も前から繰り返された行為であり、 弟自身もそのことに何の疑問も抱いていない。 何せ恋も愛も識る前に直哉が肉欲を教えて仕舞った。 弟、八十(やそ)にとって性行為は直哉とするものであり、 それ以外は考えられない。 そうなるように育てたのは兄である直哉なのだから 当然といえば当然だったが、直哉は時折それが随分と 酷いことだと、己を哂いたくなった。 離せない、離せやしない。 理由を述べるのなら原初からの縁とでも云うべきだろうか、 (否、それだけじゃない) 記憶は記憶として在る。 しかしそれだけでは無い、少なくとも幼い頃、 八十と初めて出会った頃はそんなこと思わなかった。 ただ純粋に小さな弟をあらゆるものから庇護してやりたかった。 だから己は己の自我としてこの弟を欲しているのだと考える。 今度こそ神から奪ってやりたい、罪を造る自分達を産み落とした 不完全な神を滅ぼしてやりたい。 神から弟を奪うことでそれは達成される。 けれどもそれだけではなかった。 それだけならこれほど焦がれはしない。 ただの復讐ならこれほど弟を求めはしないのだ。 ( 酷い愛だ ) 己の傲慢さはわかっているつもりだ。 弟を、八十を思いのままに貪ってそれでもまだ足りぬと蹂躙する。 健気な弟はそれに懸命に応えようとする。 いつだってその手は幼い時のまま優しく直哉の腕にあった。 「・・・っ」 八十がぶるり、と身慄いをする。 既に何度目か、数えるのは途中でやめた。 今までは奥の部屋とは云え(北条邸は本当に広い) 矢張りそう何度も事に及ぶのは憚られる。 万が一家の者に見られるかもしれない。 充分注意していたが可能性は皆無では無い。 だから交わりは聲を漏らさずに、週に精々一、二度 一回達したら終わりだった。 だからこれは八十にとって予想外だっただろう、 いつものように直ぐ終わると思っていたら壁際まで追い詰められて 直哉に貪られているのだから。 越してからは人目を憚る必要など何処にも無い 直哉は思う存分弟を貪った。 「はっ・・・直哉、」 苦しそうに八十が直哉を見る。 縋るようでそれでいて全てを見透かすような眼だ。 それに覚えがあるような気がして直哉は眼を閉じた。 ( 昔から変わらない ) 原初の頃から姿形は変わろうとこの眼だけは変わらなかった。 意思の強い、王たるものの眼、 それが憎くもありこのうえなく愛おしくもある。 ( 愛憎渦巻くなんとやらだ ) 直哉は薄く笑みを浮かべ、弟の唇を食んだ。 ぬるりと舌を絡め、再び下肢の律動を再開すれば 抵抗する気も失せたらしい弟の目から生理的な涙が流れた。 「あいしてる」 そう云えば、八十は少し目を見開いてから閉じる。 少しだけ唇が慄えて、長い睫毛が顔に影を造る。 その陰影が酷く淫靡だった。 返事の代わりに指が絡められる。 そう、幼い頃からずっとこの手を指を絡めてきた。 その熱が、指を絡めた先から伝わる温度がこの弟を安堵させるのだと いうことを知っていて直哉はやる。 気付けばもうこれは互いの癖だった。 ( 或いは ) と直哉は頭を振る。 ( 或いは、今度こそ弟を離すまいとする俺の中のカインの所為なのか ) 「とりあえず、折角自由に成ったんだ」 ぐい、と八十を抱え、より一層深く繋がって、 直哉は笑みを作った。 「聲を殺すな、もっと聴きたい」 人目を憚ることはもう必要無いのだから 聲を殺す癖は治さないといけない。 揺さ振られながら、噫、と溜息のような弟の喘ぎが微かに洩れる。 恋も愛も識らない愛しい弟。 彼に恋も愛も教えるのは矢張り自分だと直哉は思った。 聲を殺す癖 |
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