※直哉23歳、主人公=北条 八十(やそ)16歳。


隣で眠る弟の姿を確認し、
直哉はサイドライトを点けた。
互いに一糸纏わぬ姿である。
何をしていたかなど明白だった。
疲れ果てて眠っているらしい弟の顔にかかった
長い前髪を指で払ってやると、くすぐったいのか
ん、と呻いてから身じろぎをした。

小さな頃から愛しくてたまらなかった弟、
その弟に純粋な愛情だけを感じているのでは無いと
悟ったのは14の時だった。如何に天才と持てはやされる
直哉とて思春期はある。その真っ只中でまだ7つになった
ばかりの従弟に欲情した。
しかし何よりも可愛がっている小さな弟に
そのような無体を強いるわけにもいかない(当然である)
己のどうしようも無い部分を隠し通すと決めてから
直哉は今まで築いてきた己のイメージを決して壊さぬように、
弟にとって理想の兄を演じ続けた。
賢くて優しくて誰とも仲良くできて、頼りになる兄の
偶像を造った。
それがどれほど己の醜い本性とかけ離れていようと構わない、
自分にとって幼い弟からの目線が全てだった。
そうして大事に大事に手の内で育ててきた弟の
身体を開いたのはもう随分と前だ。
八十(やそ)が小6の時というのだから鬼畜と罵られようと
甘んじて受けるつもりである。
開くといっても最後まででは無い。
ただ根気強く(これは刷りこみと云ってもいい)
この行為が何なのか教え、八十が理解できるようになって
了承を得てから触れた。
それが小学生の時だっただけである。
「中学にあがったら最後までする」と説明して
文字通り本当に食べたのは八十が中学一年になって直ぐだった。
元より誰にも渡すつもりなど無いのだからそれでいい。
歪んだこの利己的な愛は、果たして愛と呼べるものなのか、
ふとそんな事を想う。
酷い執着と依存、我ながらエゴイストだ。
直哉は苦い笑みを浮かべ弟を見る。
直哉が時間と手間をかけて育て上げた身体は綺麗で美しい。
このまま誰の目にも触れさせずこの腕に閉じ込めたいとすら願う。
( しかし、 )
と直哉はやや頭を振った。
( それは違う )
弟は元々あまり外を好む性質では無い。
どちらかというと思慮深く大人しい性格だ。
が、何処か奔放な部分もあった。
優しくてお人好しで少し人見知りをする、しかし芯は太く
時に直哉でも手を焼く部分もある。
しかしその奔放な部分は時に眩しいほど直哉を揺さぶった。
自分は弟のそういった奔放さも愛している。
( 人の心というのはままならぬものだ )
捕えておきたい、離したくない、
けれども自由でいて欲しい。
そんな己の愚かな考えを哂い直哉は弟を抱き締めた。
手放すことなど出来はしない。
出来るわけが無い。
自分にできるのはただ

(檻を広くすることだけだ)


理想の弟
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