※直哉12歳、主人公=北条 八十(やそ)5歳。


がたん、と音がした。
隣の部屋からだ。
母屋の奥にあるこの部屋は直哉と従弟にあたる八十(やそ)が
続き間を襖で区切って使っている。
こちらに引き取られるに当たって離れを用意されたが、
5つになったばかりのこの小さな弟が思いの他
直哉に懐いたので結局八十に与えられた部屋の隣になった。
じ、と襖を見ているとゆっくりと開く。
暗闇から方々に跳ねた髪の毛がぴょこぴょこ揺れるのが
わかる。どうしようかと少し躊躇した様子を見せてから
幼い弟がよたよたと直哉の方へ寄って来た。
それにももう慣れたもので、越してきて一月も経てば
毎日のことになった。
「おいで」
囁くように云えば小さな手が直哉を探す。
その小さな手をそっと手に取り、引き寄せれば
この歳の子供特有の温かさとなんとも云えない香があった。
「なおや」
舌足らずな発音がなんとも愛らしくて思わず頬が緩む。
眠りについたのが8時頃だから夜中に目が覚めて仕舞うのだ。
直哉の布団に八十を引き入れ抱き締めれば縋ってくる、
それが愛しくてぎゅ、と抱きしめた。
幸福な眠りだった。

翌朝、酷く湿った感覚に直哉は青褪める。
じっとりとした感触に
まさかと、ばっ、と掛布を上げれば
見事なおねしょである。
5歳の子供だ、仕方無い。
そっと眠る弟をゆすって起こしてやり、
直哉は朝から洗濯物を片付ける羽目になった。
まだ眠たいらしい弟はそんな直哉に服を着せてもらい、
愛らしく、おはよう、と可愛い口を開くのだ。


深夜から早朝未明
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